「今いる場所から、もっと生きやすい場所に行けるように」君のメディアvol.1 服
あなたには、他の誰でもなく、自分自身を発信するためのメディアがありますか?
義務でも仕事でもなく、自分や大切な人のための媒体を持っている同世代(20歳前後)にインタビューする企画、君のメディア。
記念すべき第1回目は、「服」を自分のメディアにする瑠音さんです。
瑠音 1999年生まれ。佐賀県出身。中学生から服を作り始める。大学では美学・芸術学を専攻。大学の服飾団体の会長も務めた。
これまでの活動
―今まで服を自分のメディアにしてどんな活動してきましたか?
瑠音 服に興味を持ったのは小学生高学年で、作り始めたのは中学生のころです。そのころは元々オペラやバレエといった西洋風の舞台衣装に興味があったので、日常では着ないような奇抜な衣装を作っていました。華やかなドレス類が多かったですね。大学では服飾団体で服作りを続けていました(昨年12月に引退)。これまで高校生のころと大学生1年生のころに地元の福岡でファッションショーを開催しました。他の人に着てもらって、その人の魅力を引き出せる服作りをしたいなと思っています。
―これまでショーを中心にどんな服を作ってきましたか?
瑠音 1回のショーにつき自分が伝えたいメッセージを1つ決めて、その世界観の衣装を着ることで物語の中の役割を果たしているという意識ができる服作りをしていました。高校生のときのショーは「落下」というテーマで、物語の世界に没頭していくような、自分がその世界の主人公になるような世界観で服を作りました。大学1年生の頃のショーは「Escape from the Earth」というテーマで、自分の友人たちが今いる場所からもっと生きやすい場所に行けるように、という思いを込めて作りました。そしてショーは服のみならず、音響や照明なども含めて物語のあるものを作れることが魅力かと思います。ショーでは服も全体もメディアですね。
―これまでの2つのショーは「落下」と「Escape from the Earth」ですが、現実世界から離れることが共通のテーマですね。
瑠音 意識していたわけではないですが、そうかもしれないです。
―大学1年生で開催したショーについて詳しく教えてください。
瑠音 「Escape from the earth」は地元の佐賀県で開催し、服を15着作りました。運営に関しては自分で企画し総合責任者も務めたので、最終的な決定はすべて私がしました。ただ1人ではできないので、地元の友人や大学の友人にも協力してもらいました。地元には空間デザインなど美術系の学部に進んでいる友人が多いんです。友人たちからは日常の会話でも刺激を受けていて、そんな彼らとショーを作れたことはありがたかったと思っています。
―チームでショーを作るとき、どのように自分の想いを共有していますか?
瑠音 大学1年生の時のショーでは、自分の友人たちに想いを話したのですが、彼らとそれを踏まえてコンセプトを詰める会がありまして、議論しつつ、自分の想いをやりとりの中で精査しつつ、共有したという感じです。言葉を尽くして説明するというプロセス自体が、意識を共有する過程で大事だと思います。
服の魅力とは
―服のどんなところが魅力ですか。
瑠音 服は着ないといけないものですよね。だからそれを着て人と相対した時に、良くも悪くもメッセージを与えてしまう。それを重荷だと思っていた時期もあったのですが、逆に服を使って自分を表現することもできるのが魅力だと思います。あと服は物理的にも、無意識の中でも、自分の本質に近づくところがあると思います。
―今はSNSというメディアを使って誰でも手軽にメッセージ発信できる時代。服をつくることでメッセージを発信するのはずっと時間がかかるし、難しいですよね。手間をかけてメッセージを発信することにこだわりはありますか?
瑠音 持論なのですが、人って何もしようとしていなくても何か表現しているものだと思っています。息を吸って吐くようなものも。服は作っている間も自分と向き合って考えを紡いでいかないといけないけれど、考えが変わったりすることもよくあるので、時間がかかるとは思います。だけど私たちは発信しようとしていなくても、社会に対して何かしらのメッセージを出してしまっていると思います。
―お客さんのショーの捉え方が、想定と違ったこともあると思います。伝えたかったメッセージとお客さんの捉え方が離れることに抵抗はありましたか?
瑠音 慣れないこともありました。でもそれは、日常の服でも同じことが起こっているんだろうと思うんです。例えば、私が私らしく見えない服を着ている時に、私のことを知っている人が見ることとそうでない人が見ていることが重なる部分があります。面食らうこともありますが、それが服というメディアかと思います。
―服の選び方もメディアになると思います。以前はみんな仕立ててもらった服を着ていたのに対して今は均質化しているなと感じるのですが…
瑠音 そうですね。時代の流れで仕方ないと思う部分もありつつ、(ファッションにまで)考えが回らないということもあるんじゃないかな。私もおしゃれをしていない時間が多いこともあるのですが、それも表現のうちの一つかと思います。たとえ忙しくて5分で選んだ服でも。
―服の改造より布から服を作ることが好きと伺いました。それはなぜですか。
瑠音 最終的にはいちばん根元まで辿っていって蚕や麻から糸をとるようなところから始めてみたいと思っています。そして例えば、トレンチコートはもともと軍用のものであったり、ジャージやデニムも一人のデザイナーによって作られたり、服を身に付けることで人の営みの変遷も合わせて身に付けていると思っています。だから服が作られる歴史的背景のところを一からつくった時に、どのようなメッセージが現れるのかと言うところが気になるんです。
―今服に関して興味のあることや服に込めたいメッセージはありますか。
瑠音 やってみたいのは1枚の布の中に自分のこれまでの人生とか自分の祈りみたいなものを編み込む、織り込むっていう作業をすることですね。手作業で編むのは地道な作業で、自分の中に立ち返るみたいなところもあるので、そういうことをしたいと思います。
これからあなたのメディアを使ってしたいことは?
瑠音 今まで、他の人に身につけてもらったり、他の人の要望に沿って作っていたりしたのですが、最終的には自分が身に纏って一番落ち着くようなスタイルを実現できたら良いと思います。
―「落下」、「Escape from the Earth」のように違う世界へ行くコンセプトが多かったのに対して、今の瑠音さんは自分と向き合おうとされているんですね。
瑠音 これまでのショーでは自分が理想としているものでしたが、今は自分の肉体的なものと折り合いを付けたいと思っています。
―今他に興味のある「メディア」はありますか?
瑠音 今気になっているのは、短歌や俳句の世界です。言葉のリズムや響きをとてもミニマルな字数で表現していて、制限のなかで丁寧に世界観を作るのがすごく面白いなと思っています。
interview : ナカノ
illustration : カオル
瑠音
1999年生まれ。佐賀県出身。
中学生から服を作り始める。大学では美学・芸術学を専攻。大学の服飾団体の会長も務めた。