広がる“あお”の展覧会 Ah! Oh!展 / 君のメディア vol.6

広がる“あお”の展覧会 Ah! Oh!展 / 君のメディア vol.6

仕事でもなく義務でもない、ただ純粋に「作りたい」の気持ちで作ったものを発信するためのメディアを持つ同世代を取り上げる企画、君のメディア。第6回は、同じ学科に所属する学部生で構成される団体であり、2022年5月3日より展覧会を主催するProject Ah! Oh!の皆さんにお話を伺いました。

Ah! Oh!展とは

同志社大学文学部美学芸術学科3回生よって結成された団体、Project Ah! Oh!によって開催される展覧会。「あお色」に着目し、「あお」という言葉の持つ様々なイメージやニュアンス、またその色の捉えられ方などを提示し、アーティスト・鑑賞者・開催者としてこの展覧会に関わった全ての人びとが自分の持つ「あお」へのイメージについて考える機会となることを目的としている。

あなたにとっての「あお」とは何ですか?あなたのもつ「あお」へのイメージとは?
あなたの考える「あお」の意味とは? 

これらの質問に呼応したアーティストたちが、人生経験に基づいて想起した自分だけの「あお」をそれぞれの手法で表現している。2022年5月3日(火)から5月8日(日)までの6日間、MEDIA SHOP(三条VOXビル1階)にて開催。

今回インタビューに答えてくださったのは、同志社大学の文学部美学芸術学科に所属するProject Ah! Oh!の運営メンバー5名のうち、4名の皆さんです。

松元胡桃

Project Ah! Oh! 代表。専門は文芸学。

鈴木郁美

庶務担当。専門は西洋美術史。

望月優希

広報担当。専門は芸術学。

y.u.d.a

連絡担当。専門は美学。出品者としても参加している。

村田伊織(欠席)

会計担当。専門は美学。出品者としても参加している。

近くて遠い「あお」

─展覧会を開くきっかけとなった出来事はなんですか?

松元胡桃

運営の5人は、前の学期に同じ授業を取っていました。その授業を担当していた先生とともに意見交換の会をした時の、「そういうことを考えてるんだったら、1回展覧会を開いてみたら?」という一言がきっかけです。

鈴木郁美

結構フランクに言われたよね。それで私たちも、「じゃあやってみるか!」みたいな。

松元胡桃

意見交換をして、それを表現できる場を何か作れないかな、というものの発露に当たりますね。

─運営の皆さんで話し合ってコンセプトを決めたということですが、どのような意図が込められていますか。

松元胡桃

展覧会を開こうと決めた時に5人で話し合って、全員がその時に持っていた問題意識が「多様性」という言葉に一纏めにされているものへの懐疑心でした。

また、私たちは同じ学科(美学芸術学科)に所属しているということで、学術的に芸術を学んでいるという立場からアートを通して我々の問題意識を発信することができないかと考えて、それを主軸としてコンセプトが決まりました。

鈴木郁美

芸術を学んでいる者として、ともに学んでいる同じ学科の仲間たちだけではなく、普段は芸術に触れていない人にもアートさんをもっと身近に感じてほしいという想いがあります。テーマとして親しみやすい「色」、その中でも身近な「あお」をテーマに据えることで、足を運びやすい展覧会になっていると思います。

松元胡桃

それから、「多様性」という言葉の印象と結びつくテーマってなんだろうって考えたら、「色彩の多様性」という言葉がまず出てきて、そこからアプローチをかけることができるんじゃないかという結論に至りました。

青色は自然の中に色として溢れてはいるけど、手に取れる色ではないんですよね。身近にあるようでそうではないもの、という矛盾を孕んでいるところが「多様性」にも繋がると考え、「あお色」に焦点を絞ったコンセプトが生まれました。

─青色は「手に取れる色」ではないけど同時に身近に存在する色でもあるから、入口は簡略化されてはいるけど入ってみたら広がりがある、意外性があるとも捉えられますね。

松元胡桃

「Ah!Oh!」という感嘆詞の表記はy.u.d.aくんが考案したのですが、実際に会場に入ってみてそういう捉え方もあるのか、という驚きを鑑賞者に持ち帰っていただきたいという思いも込めています。

y.u.d.a

あお色は実感を伴って手に取れないけれど、現実として存在している。つまり、空や海は身近だけれども触れないということなのですが、それは展覧会に来た鑑賞者に見つけてもらいたい「あお」の一部分の具体例でもあります。

鈴木郁美

一概に青と言っても個人によって青のイメージは違うし、国によってはすごく深い緑色のことを青って表現することもあるらしくて。1人1人にとって思い描く青って違うんじゃないかっていうところが意味の広がりや「手には取れない」というところと結びつくのかなと思います。

望月優希

「あおい」という形容詞には日本語では「若い」という意味もあるし、色々な「あお」を見つけてほしいです。

議論中の様子。

「多様性」を扱うことへの葛藤

─「多様性」という言葉は昨今さまざまなメディアで多く使用されています。この言葉を使うことは、ともすればこの言葉の内包するものの多さに身を委ねているとも捉えられますが、「多様性」を扱うにあたって気を付けたことはありますか。

鈴木郁美

確かに「多様性」という言葉を安易に取り入れるのは危険です。なんでも「多様性」と言っておけばそれらしく見える、ということもあるので慎重に向き合いました。

松元胡桃

最終的に広告に載せる文章を決める時にも「多様性」という言葉を入れるか否か、議論を重ねました。私たちがこの場で使っている「多様性」は「変化に富んでいる」という意味で使ってはいるけど、鑑賞者の持つ「多様性」という言葉への印象との乖離が心配ではあった。

鈴木郁美

人それぞれ言葉から思い描くものは違うし、同じジェンダーについてでも、誰が語るかによって大きく変わります。だからこそ、価値観の押し付けだけはしたくなかったんです。

y.u.d.a

アーティストさんとやりとりしてオーガナイズする立場だったのでそれぞれの作品をよく知っているんですが、本当にみんな方向性が全く違って面白いんです。どういう背景でこの「あお」を表現するに至ったのかというのを、文字の解説も含めて見てほしいです。

松元胡桃

この展覧会を見た反応が「わかんない」でも、「なにこれ?」でもいい。でも、考えることを放棄することだけはしてほしくないんです。これはこうだ!って1つの答えが出る展覧会ではないけど、それは諦めではない。この展覧会を通して得たものを持ち帰って考えの種にしてほしいし、「分からなくても考え続ける」という姿勢が伝えられたら嬉しいです。

─「青」は、先行研究がとても多いテーマですよね。

松元胡桃

青についての文献はたくさん調べました。

鈴木郁美

青をテーマにした他の展覧会も調べたよね。でも表現したいものは私たちの中にあったんです。根幹にある目的は私たちの展覧会という1つの作品を作ることで、先行研究や他の展覧会に左右されるものではありませんでした。

y.u.d.a

青に関する論文も読みました。でも調べれば調べるほど、自分の中の「あお色」を定義するのが難しくなりました。

松元胡桃

この文献にこう書いてあったからこうしよう、ということではなくて、そこから吸収したものを踏まえて、私たち独自のものを表現したかったんです。

展覧会を作ること、展覧会から発信すること

─運営の皆さんは美学芸術学科所属です。芸術を学術的に学ぶという視点は展覧会を作る時に活きましたか?

鈴木郁美

私は、展示について考える時に学芸員課程の関連授業で学んだことが活かせていると感じます。総合大学だから色々な領域の授業が取れるので、専門以外の視点からの学びも多いです。でもこの学科にいなければこの展覧会を作るに至らなかったし、フェルメール・ブルーなど美術史でも参照されてきた青の存在をより明確にイメージできました。歴史的にどんなものが青色で表現されて、人々がどう受け取ったかもより鮮明に思い描けたと思います。

松元胡桃

文系学科には、基礎的な勉強を経た1つの到達点として、卒業論文があります。だから、「あお」を選んだ理由の一貫性もたくさん考えました。感性的な部分だけではなく、理性的な部分からもアプローチをかけるということがこの学科で学んでいる意味かなとも思います。

y.u.d.a

この展覧会に出品している人たちの中では、普段から制作に携わっている方が少数派です。芸大や美大に通っている人でも、自分の専攻である普段の制作手法とは全く違うやり方でこの展覧会に出品している人もいます。大学で学んでいることというより、むしろ大学の枠組みに囚われない展覧会であるということもこの展覧会の意義の1つかと思います。

─美学芸術学科の生徒が制作段階から携わって展覧会を開くというのはほとんど前例がないと伺いました。

鈴木郁美

五里霧中でしたが、本当に先生方に助けられました。でも、展覧会を自主的に開くことをやったことがない5人が集まっているので、決まったプロセスに縛られずに自分たちらしくやれたとも思います。

望月優希

1から2を作るのは簡単だけど、0から1は本当に大変です。今回は「あお」をタイトルに冠した展覧会ですが、見た目に「青くない」作品もラインナップに加わっています。私は広告を担当しましたが、展覧会に関してお客さんの目に最初に入るメディアであるチラシに自分が青を使ってしまったらコンセプトが揺らいでしまうんじゃないかという考えもありました。ですが、自分なりにメッセージを込めて大切に作りました。

望月さん作成のチラシ(裏側)。色使いや文字配置に彼女なりのメッセージが込められている。

─展覧会というメディアを持ちたいという気持ちと、展覧会でメッセージを伝えたいという気持ちはどちらが先行していましたか。

松元胡桃

後者です。Project Ah! Oh!では我々が質問を提示して、それに呼応したアーティストさんたちの答えである作品をまとめるのが我々の仕事です。メッセージを伝えたいといっても、「多様性ってこうだよね」と1つのことを提示したいわけじゃない。集まった意見を統合して、どのように鑑賞者によりよく伝えるかというところがメインです。

鈴木郁美

伝えたいことがあるなら展覧会っていうメディアで伝えればいいじゃん、っていう流れもあったので、ある意味同時とも言えるかもしれないね。

─今の皆さんにとって展覧会というメディアとは。

鈴木郁美

専門分野が西洋美術史なので、私にとっては学びの場です。博物館は生涯学習機関だからそうあるべきというのもあるけど、新しい知見や考え方、発見がある場とも捉えられます。この展覧会も、私にとっての展覧会像である「新しいことを開拓する場」と強くリンクしていると思います。

松元胡桃

ただ自分の意見を伝えたいなら、それに特化した文字メディアで表現すれば齟齬なく伝わるところを、アーティストさんたちはわざわざアートで表現して伝えている。アートを通してこの人が伝えたいことはなんだろう?と考えることによって、エンパシー能力を養える場でもあると思います。

─この展覧会を特別なものにしているポイントはなんでしょうか。

鈴木郁美

コンテクストです。他の展覧会も調べたけど、見た目に青い作品だけを集めた展覧会というわけじゃなくて、アーティストさんそれぞれがどんな背景から「あお」を語っているのかが明示されているところです。

望月優希

私にとってこの展覧会は特別、という意味だけど、思い出になるということ。この学科に入った意味を探したくて参加したし、自分の技量を試したかったから、それが現れていて私にとって特別です。

y.u.d.a

この展覧会が特別なのは、展覧会づくりにおける既存のやり方から外れているところ。そもそも全員が展覧会作りは未経験の状態で取り組んだので、セオリー通りに進んだわけじゃないからこそ学生が作った展覧会という枠組みで見ても特殊で価値のあるものなんじゃないかな。

松元胡桃

私だけがやりたくて、とか他の誰かがやりたくて、じゃなく5人の共通した問題意識と、それに呼応したアーティストさんたちの表現の集大成であること。考えることをやめないでほしいというメッセージを伝えたいという展覧会なので、独りよがりなものではなく1人1人が何かを持って帰ってほしいです。

展覧会の開催に至るまでの期間は約1年。

5人の込めたメッセージはアーティストたちひとりひとりが思う「あお」と混ざり合い、研ぎ澄まされ、どのように結実するのでしょうか。

5月3日より7日間に渡って開催されるAh! Oh!展。このゴールデンウィークにぜひ足を運んで、あなただけの「あお」を探してみては?

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聞き手:ツジ

取材日:2022年4月19日

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Project Ah! Oh!

同志社大学文学部美学芸術学科に所属する5人よって結成された団体。2022年5月3日から三条MEDIA SHOPにて、主催の展覧会「Ah! Oh!展」を開催。
Instagram: @project_ah_oh
Twitter: @project_ah_oh

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