官能的な世界で追求されるおもしろさ/偏愛道vol.4 ラブホ

官能的な世界で追求されるおもしろさ/偏愛道vol.4 ラブホ

「偏愛道」は暮らしの中で思わず通り過ぎてしまうような“ときめき”に出会い愛する人たちを特集する。

第4弾である今回は『ラブホ図鑑』編集部員のふでつかさんにお話をきいた。今回はMAJIME ZINEの独占インタビューにより、昭和のラブホの魅力に迫る。

ラブホといえば、セックスをする場所である。筆者はおおっぴらに話すべきではない印象を抱いていた。

そんな中インタビューが始まってすぐに、「ラブホのあるメリーゴーラウンドがレトロで素敵なんですよ!」とふでつかさんは語る。

全く照れや恥ずかしげもなくラブホについて熱く語ってくれるので、浅草花やしきのような昭和レトロなスポットについて語ってくれているように錯覚をしてしまう。

ラブホの取材方法とは?

ふでつかさんのラブホ愛は、その取材方法からも伝わる。

例えば、彼女はラブホに取材にいくときは、できるだけ「ご休憩」ではなく宿泊するそうだ。一泊するとなるとかなりの料金がかかる。それでも泊まる理由は、「ご休憩」では気づけない、部屋の小さないいところを発見できるからだそう。

「ベット脇にイヤリング置き場があることとかは夜に寝ることで気づけるんですよ。でも宿泊すると、写真はあとでとればいいかって、楽しんでしまいチェックアウト直前に慌てることもあるんですけどね」

そこには『ラブホ図鑑』をつくるためにラブホに行くというより、『ラブホ図鑑』は彼女がラブホに行くための言い訳に過ぎないような印象さえあった。

自分たちが発信することで、例えばラブホ業界に対するイメージを変えようとか、ラブホを好きになってもらおうとかいう気持ちはそこにはなくて、それよりも彼女のラブホが好きという気持ちがはじけて、それに読者が惹かれていくようだ。

「全員がプロ野球選手になるわけじゃない」

『ラブホ図鑑』は赤いカラーと正方形のフォルムが特徴的でかわいい冊子である。このような綺麗な装丁の冊子を作るには、取材費や印刷費がかなりかかりそうである。しかしそれらを賄うために広告主やサポーターをつけることはしなかった。

「草野球をしてる人に対して、『プロ野球選手になれないからやめなよ』という人はいないじゃないですか。それと同じで、クリエイティブなことを楽しむことだけでもいいと思う。趣味を延長にしたら仕事にしないといけないというのが嫌です。最後まで趣味でもいいはず。」

いまはSNSやフリマアプリなどで、自分の趣味でお金を得ようとすることが、趣味を仕事にすることが、簡単にできる。そんな時代で、彼女の基本姿勢は好きなことを追うことだ。もし広告をつけるなら、そこには広告主と発信者のあいだで関係と責任がおのずと生まれる。そうすれば、両者で齟齬が生じることもあるだろう。ふでつかさんは自分の気持ちに嘘をついていないかだけを考えて活動している。趣味の範囲にあえてとどまることで、できることが増えることもある。

昭和のラブホの魅力

ふでつかさんの「好き」を追いかける姿勢は、彼女がフォーカスしている「昭和のラブホ」ともつながる。回転式ベッドや中華風の部屋など、一見ぶっ飛んでいる昭和のラブホだが、そこには昭和の経営者の「面白いラブホをつくる」という強い思いがある。

昭和という時代はマーケティングが発達していなかった。もちろんお客のニーズに合わせるという考えはあったが、最終的には経営者が面白いと思ったものが世の中に出ていた。一方、最近のラブホテルは、お客のニーズが第一である。そのためか飛び抜けているものが少ないようだ。

さらに「もしラブホ経営者になったら、どんなラブホを作りたいですか」という筆者の質問に、「各国をモチーフにした部屋を作りたい。大人の全力みたいなこだわった内装にしたいですね。」と。すべての部屋でエッチをしたら、世界一周できる仕組みのようだ。ぶっとんでいるけど、非常に非常に面白い。

ラブホへの思い

そんなラブホ愛の強いふでつかさんに、今後のラブホ業界への想いを聞いてみた。

ラブホに行く楽しみは、非日常感が味わえることだ。エッチは家でできる。しかし、普通のホテルとは違う、エッチのために用意された空間には非日常な魅力がある。

「スタバに行く人ってただコーヒを飲みたいだけじゃないですよね。少なからず、あの雰囲気が、空間が好きで行くじゃないですか。ラブホも同じです。

だからこそ、ラブホにはビジネスホテルやリゾートの下位互換のようにはなって欲しくないですね。コロナ禍を乗り切るためには致し方ないのかもしれませんが、普通のホテルのようなラブホが増えているのは少し寂しいですね」

これは私が当初抱いていたラブホのイメージとは想像の付かない発見である。一つのことをつきつめた偏愛者のみが見ることのできる世界。その片鱗に触れることができた気がする。

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『ラブホ図鑑』ふでつか

ラブホ図鑑:
「好きだからやる」「やりたいからやる」をビジョンに女子大生二人が作るフリーペーパー。主に昭和レトロなラブホを取材する。取材・制作・発行に至るまで、すべて自分たちで、自費出版にて行う。

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