no title#8 地元と私―夏祭りを通して

no title#8 地元と私―夏祭りを通して

「この記事、世に出していいか迷ってるんです」
筆者・ジュンは、編集会議で打ち明けた。このためらいは、彼女が自分を曝け出して書いた証なのかもしれない。

「地元」というのは不思議なもので、いつまでも自分と切り離せない距離にある。
そして、自分のやわらかい部分に触れてくる強烈さがある。

地元の祭りに久しぶりに足を運んだ彼女。
その目には、熱気溢れる祭りの光景が、さまざまな人間のかたちが、そして、忘れたくない自分自身のすがたが、くっきりと映し出されていく。
(モエコ)


今年、3年ぶりに地元の祭りが復活する。祇園祭りをはじめとして、地域の祭りが各地で復活する、というニュースは全国各地で耳にすることが多くなった。自分の地元の祭りが復活したところで、私自身にはなんてことのないことだ、そう思っていた。

私の生まれ育った地域は、長年続いた神事としての地車(だんじり)祭りが有名で、規模も大きい。コロナ禍以前は地元の人だけではなく、遠方から見に来る人も多かった。それがコロナ禍のあおりを受け、開催することができず、私自身も夏の風物詩としての祭りの存在を忘れてしまっていた。

復活する、と言っても、私自身そこまでの期待もなく、感慨もなかった。というのも、私は、ずっと自分の地元に対して、一種のわだかまりがあったからだ。

小さい時から、生まれ育った町が嫌いだった。学校でクラスにうまくなじめなかったこともある。そんな私にとって地元の祭りは、地域のつながりの深さが感じられ、そこに入ることのできない自分の存在がつきつけられるものだった。(もちろん、小学生として参加できるものなどには、加わっていたが、本格的な「祭り」には参加できていなかった。)

だから、地車祭りが復活したところで、何も感じないだろうし、参加はせずに傍から見ているだけだろうと考えていた。しかし、この私の予想は大きく裏切られることとなった。

今年は、大学に入ってから仲良くなった友人が祭りを見に来るというのだ。生まれ育った土地、という、アイデンティティのひとつが異なる人間同士が交流すると、新たな価値基準が生まれる。特に今回は、友人は私の中のわだかまりを解いてくれたように感じる。彼女が、私が嫌っていた地元に良い部分を見出し、私が見えていなかった部分を見せてくれたのだろう。

祭りの日、久しぶりに姿を見せた地車を見て、私は思わず泣いてしまった。精巧につくられ、この日のために大切に磨かれてきた地車、中に座って太鼓を叩き、鐘を鳴らす若者たち、地車を押す人たち、それらを見に来ている人たち。地車を取り巻く人すべてが熱気にあふれていた。その「地域」を形づくる人々の想いと努力が、「祭り」という形で表現されていた。「よいよい」、「もせもせ(戻せ戻せ)」、「おうたおうた(会った会った)」、それらの掛け声も、単に声を出すだけではない。形式すべてに意味があり、外から見ているだけでもその意味を見出せることを初めて知った。そして私は気がつけば祭りに熱中していた。

野北の地車
野北の地車

地車を見て泣くなんて、以前の私にとっては理解しがたかったことだろう。コロナ禍を経て、本来あるべきものが失われていく中で、それが復活し、その復活に尽力している人たちの熱意のようなもの、エネルギーがありありと感じられ、感動したのだ。

市町の地車
市町の地車

もう1件、発見と喜びがあった。地車を見に行こうとするとき、この地元に長く住んでいらっしゃる近所の方に、このような言葉をかけられた。

「ジュンちゃんが、祭り好きなの嬉しいわあ」

近くに地車があるから見るだけ。それだけのことだと思っていた。しかし、長年地元を見守ってきた人からの言葉によって少し認識が変化した。ただ「見る」だけでも、そのような参加の形がある。そしてそのことによって私はもうすでに地元のつながりの中に存在していたのだ。

「この町が好きだ」

今、はっきりと思える。いつか、離れるときが来たとしても、その思いは残るだろう。

私は現在、大学3年生で、就職活動に注力している。職業はもちろんだが、住む土地については、思い悩むことが多い。数年後には、この町を離れるかもしれない。それでも、私のアイデンティティのひとつには、地元と、地車祭りがあり続ける。

この夏、これまでとは、一味もふた味も違う、祭りの「見物人」になって、私の中に地元、そして祭りがアイデンティティとして以前から存在していたことを知った。驚きである。友人、そしてご近所さんと関わったことによってそれは知ることができた。彼女たちには感謝してもし尽せない。

やはり、人間の多様さ、そしてそれが交わることは人間が生きるうえで必要なことなのである。

野南の地車。
野南の地車。祭りの期間、昼間は町を練り歩く。
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ジュン

大阪出身の大学生
専攻:美学芸術学―文芸学

好きな言葉
「冬がなければ、春をそんなにも気持ちよく感じない。私たちは、時に逆境を味わわなければ、幸福をそれほども喜ばなくなる。」―シャーロット・ブロンテ

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