わたしのたからもの~feel fine since 2000×MAJIME ZINE~ ナカノ編 /第2号vol.5

わたしのたからもの~feel fine since 2000×MAJIME ZINE~ ナカノ編 /第2号vol.5

この記事は紙媒体のZINE第2号に掲載したものです。今回のテーマは「たからもの」。編集長ナカノによる文章です。

こどものころ、一時期タイムカプセルを埋めることにはまっていた時期がある。誰かと遊ぶにつけて缶詰めの手紙やたからものを土に埋め、なぜかいつ掘り起こすかをその缶自体に(でかでかと)書いていたため、いつ掘り起こすかを忘れた。今もそのままになっていることだろう。

 タイムカプセルの醍醐味は、年を重ねた自分に手紙を書いたり、埋めるたからものを選んだりすることにある。実は一つだけ、タイムカプセルを幼い自分との約束通り掘り起こしたことがあるのだが、たからものはラブアンドベリーのラメ入りカードだった。

 
 いま、タイムカプセルを埋めるとしたら、何を入れるだろう。

 わたしのたからもの。わたしが大切に思うもの。わたしが価値を見出すもの。わたしが守りたいもの。
そう考えてみると、今のわたしのたからものは、モノではなく心の中にある気がする。

 なぜなら、わたしの心は、いつの間にか人から傷つけられたり、いたわられたりする。わたしの心なのに、わたしでさえ中身が見えないこともある。でも、その繊細な空間を守れるのは、良くも悪くもわたしだけだからだ。

 
 心の中身の中で、わたしが意識的に守ってきたものが一つある。
それは、「わたしが人と違うこと」だ。例えば、興味があること、考えてきたこと、経験してきたこと。

 これらは誰一人、わたしとぴたり一致する人はいないはずだ。さらに、この「わたしが人と違うこと」は、わたしの人生を切り開いていくうえで一番大切なことだとも思う。なぜなら、自分の道を探る上での道しるべになってくれるからだ。

 しかし、それを守るのは簡単なことではない。なぜなら、「人と同じ」な方が都合のいいことが多いからだ。例えば、自分の興味を持っていることが人に話しにくいことなら、それを隠さなければならないが、周りの人の興味と合わせておけば会話も弾む。

 以前テレビで、こんな話を耳にしたことがある。

 最近の女子小学生は、ファッションに凝っていて、雑誌やインターネットを通じて情報を集め、トレンドを逃さないように苦心するらしい。逆に、そのようなことに興味がない子どもや、親にトレンドの服を買いそろえてもらえない子どもが、話題についていけなかったり、悪いときはいじめにもつながるという。

 これを見た時、必ずしも小学生に限る話ではないと思った。本当は自分の興味がないことにも、居場所のために興味を持たなければならない環境。こんなことはおかしい、と頭では考えられても、なかなか伝えられない葛藤。さらに、「人と同じこと」を求めてばかりの経験は、他人にも同じことを強制してしまうかもしれない。これらはすべて、「人と同じこと」が自分を守ることだと思ってしまうことが原因だ。

 しかし、自分を守るというのは、自分を取り巻く環境から傷つけられないように、波風立てず同調することではない。どんなに傷ついた状況になっても、自分は自分のことを信じて、愛せることだとわたしは思う。

 だから、わたしのたからものは、「人と同じこと」ではなく、「人と違うこと」と言いたい。「人と違う」ことは、きっとわたしの強さであり、導いてくれる相棒だと思うから。

 
 といいつつも、正直、わたしも「人と同じこと」を求めてばかりの時期もあった。小学生の時は、クラスの中心にいる子に憧れて、その子と同じような服が欲しいと思っていた。高校生の時は、好きな画家であるゴッホのティーシャツを部活に来ていったら変だと笑われて、それ以来着ていけなくなったこともあった。

 そんな私が、同調の呪縛から離れて、「わたしがひとと違うこと」に自信が持てるようになったのは、勇気をもって自分に正直に生きる、「人と違うこと」を厭わない、先例を示してくれた友だちや、ありのままのわたしを受け入れてくれた友だちがいたからだと思っている。


 だから、これからはわたしのたからものを聞かれたら、「わたしが人と違うこと」に加えて、「あなたが人と違うことを、受け入れられること」、と言えるようになりたい。わたしの前にいる人が、胸を張って「わたしと違うこと」を言ってくれるような人になりたい。


 この記事がタイムカプセルになって、何十年後のわたしがこれを読むときに、そうなっていられたら、と思う。

第2号『マジメが手探り、マジメの手触り』(2020/10/3発行)に掲載。

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中野多恵

編集長。大学院生。芸術コミュニケーション専攻。

好きな言葉:「手考足思」(河井寛次郎)

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