no title#3 わたしの中のわたし 寄稿

no title#3 わたしの中のわたし 寄稿

明白なタイトルがつけられるほど輪郭がくっきりしていない。だけど自分の中には確かにある「何か」を言葉にしてみる実験的企画、「no title」。今回は、ZINEのコンセプトにもある「夢中になること」そのものを考えた、ちかさんの寄稿です。

私はもともと自分の考えを発表したり表現したりすることが苦手だった。そのことが原因で伝えたいことがうまく伝えられず、もどかしい思いをしていたころ、友人の紹介で偶然この『MAJIME ZINE』 を読んだ。筆者の夢中なことに対する想いがあふれたその文章に魅了され、気づいたらすべての記事を読み切っていた。「自分を表現できるってこんなに素敵なことなんだ」「こんな風に人を感動させることができるんだ」と気づいた私は、私も自分を表現してみたい!と思うようになった。

しかし、ひとつ問題があった。ここでは「何か」に夢中になっている人がその「何か」について思う存分語る場であるのに対し、私はそこまで何かに夢中になったことがなかったからだ。夢中になったことがないのにどう自分を表現したらよいのか。悩んだ末に出た答えは、「夢中になったことがない」ということについて素直に感じることを書いてみよう、というものだった。

今までの私は、「夢中になっていることは?」や「何をするのが好き?」という類の質問をされると困った。「はまっているものはあるけど夢中って言えるのかな」「〇〇ちゃんは『好きなことについてならいくらでも話せる』と言っていたけれど、私はそんなことないな」などと考え、何と答えたらよいかわからなくなってしまうからである。好きなことが何もないわけではないのに……。

振り返ってみれば、小学生の頃はゲームが好きで暇さえあればゲームをしていたし、中高生の頃は部活に夢中になっていた。でもそれについて語ってくださいと言われると困ってしまう。私は夢中になれていないから語れないのだと思っていた。だから、夢中になっていることを聞かれても答えられなかったのだと。でも「本当に夢中になっていないの?」「思い当たるものはあるけど語れないの?」など自分にたくさんの質問を投げかけてみると、本当は、語らないせいで夢中になっていることに気づかないだけだと分かった。

私はなぜ好きなことについて語れなかったのか。その理由を考えると2つの答えに行きついた。

○自分の本当の気持ちを分かっていなかった

好きなこと、夢中なことを語るには、それのどんなところが好きなのか、何がそんなに夢中にさせるのかを自分の中できちんと理解しておく必要がある。ここでの理解とは頭の中で考えるだけでなく、具体的に文章にして言語化するということである。人はこの言語化をする過程で自分が何を考えていたのかをはっきりと認識すると思う。言語化は頭の中ですることもあれば、人に話したり紙に書き出したりすることも当てはまる。

私は考えることと言語化することは別物だと思っている。考えている時は、頭の中にイメージが浮かんできて言葉になっていない。そのイメージを言葉に変え文章を組み立てていくことがここでの言語化だ。私は言語化が苦手だ。だから自分の本当の気持ちを認識しにくい。また私は言語化に時間がかかるため、何が好きか聞かれたとき、すぐに答えられず、また早く答えなければと思うあまり「わからない」や「ない」という返事をしてしまっていた。

○他者の視点で自分を見ていた

もし自分の頭の中で言語化できたとしても、相手に伝えられない時がある。これを伝えたら相手はどう思うか、どんな反応をするか気にしてしまう時だ。「変な趣味だと思われるかもしれない」「この程度で好きと言っていいのか」という不安のせいでなかなか話すことができない。相手にどう思われるか不安だから言わない、と意図的に自分の好きなことを隠したこともあったが、頭の中で答えは出ているのになぜか声に出せないということもあった。きっと自分が自覚する前にその不安を感じていて、無意識にストッパーをかけてしまっていたのだ。

では、なぜ意識的にも無意識的にも相手の目を気にして、自分の好きなことを言い出せなくなってしまうのか。それは他者が自分を認めることの意味が、自分が自分を認めることの意味よりも大きいように感じていたからだ。他者に自分を否定されるのを恐れていたのは確かである。また、他者に認めてもらうことの意味が大きくなってしまったのは、自分が自分を認めることができていなかったためだ。他者の視点で自分を見ていたのである。

これに気がついた今は、「好きなことを好きと言えるのは自分しかいない」「相手がどう感じようとそれは相手から見た自分であり、自分から見た自分の方がもっと大事」と考えられるようになった。

ここまで、今までの私を振り返って、自分が思っていたよりもたくさんのことを考えていたことがわかった。私は好きなことや夢中になることがなかったのではなく、その気持ちに蓋をしたままで気づかなかったのだ。この事実に気づいた今、もっと自分に目を向けて心の蓋を開けていきたい。そしてその蓋を再び閉ざすことなく、自分の気持ちを大事にしていきたい。こう考えると何か新しい自分に気づける気がしてなんだかわくわくしてくる。自分に素直になろう。

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ちか

2000年生まれ。新潟県出身。現在は仙台市で建築を学ぶ。歴史・芸術・人・物理・環境など様々な要素が絡み合う建築分野の中から、何を専門にするか迷い中。

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