「手紙を書くという選択肢がごく当たり前に、この先も人々の暮らしに存在し続けて欲しい」/ 君のメディアvol.4 手紙 フリーペーパー手紙暮らし
あなたには、他の誰でもなく、自分自身を発信するためのメディアがありますか?
義務でも仕事でもなく、自分や大切な人のための媒体を持っている同世代(20歳前後)にインタビューする企画、君のメディア。第4回は、海外の人たちと手紙をやりとりし、「手紙暮らし」という手紙に関するフリーペーパーを発行している手紙暮らしさんにお話を聞きました。
手紙との出会い、海を超えて
―まずはお二人の手紙との出会いを教えてください。
カノさん(以下敬称略):小学生の時の引っ越しの経験からです。当時はメールがなかったので、手紙を頻繁に書いていました。なかには文通のおかげで、そこに住んでいた時よりも仲良くなれた人もいて、その時に手紙ならではの良さを感じました。
みずほさん(以下敬称略):もともと海外の文化に興味があったんです。けれど当時、海外に行くお金や時間もなくて。どうやったらリアルにつながれるんだろうと情報を集めていた時に、文通を思いつきました。文通だったら海外に住んでいる女の子とリアルにコミュニケーションが取れるからと思ったんです。
―お二人は主に海外文通をされていますが、どうやっているんですか。
カノ:最初、文通相手を見つける時には、“PenPal World”というサイトを使いました。でも英語で自己紹介して、レターフレンドになりたいと書いたら、メール友達になりたいというコメントがいっぱい来てしまって。レターフレンドに、手紙という意味があまりなくて、”snailmail”※が紙の手紙だということを知りました。そして”snailmail”と書いたら、一気に手紙でやり取りしたい人とつながれるようになりました。
(※snailmail:snail(カタツムリ)とmail(メール)を組み合わせた造語で、電子メールに比べて、カタツムリの動きのようにゆっくりで届くまでに時間のかかる「手紙」を表す言葉。)
最近はInstagramで文通専用のアカウントを持っている人がいるので、そこで文通相手を見つけます。
みずほ:最初はポストクロッシングという一回だけポストカードを交換するのから始めました。
―どんな方とやり取りしていますか?
カノ:同性が多いですが、年代はさまざまです。お互いの好きなことを話すことが多いですね。料理が好きな人とはレシピを送り合ったり、絵を描くのが好きな人とは文字だけでなくアートを送り合ったり。
―フリーペーパーの4号にも海外の文通友達から教えてもらったレシピが載っていましたね。
みずほ:年が違う人だと話が続かなくなってしまうことがあるので、同年代が多いです。フランス人のペンパルがいるのですが、その子は日本が好きで、私はフランスが好きなので、「お互いの文化を知りたい」という共通点があります。
学校行事は共通の話題でした。こっちには文化祭があってとか、向こうはハロウィンパーティーがあってとか。
―海外の手紙の相手との共通点を感じることはありましたか。
みずほ:海外文通では、手紙だけじゃなくて、物も交換します。宗教も食べ物も違うけど、どの国の女子高生も可愛いものが好きなんだと感じました。根本は変わらないんだなと。
カノ:かわいいものを送ることが多いですが、日本に興味を持ってくれた人は、日本の文房具に興味を持ってくれますね。日本のように誰でも買えるようなお手頃なレターセットが海外には少ないようで、そういうものを送ると、すごく喜んでくれました。そういう日本の「かわいい」カルチャーがあるんだと。
だんだん仲良くなってくると、恋バナしたりします。恋バナは全世界共通で、似たようにキュンキュンします。
海外の人はレターセットを使う子が少なくて、ルーズリーフを破いて絵をかいて送ってくれる子が多いです。そこに異文化を感じましたね。
ある友達は手作りの封筒で送ってくれたのですが、配達中にノリが取れて、封筒だけが届いたんです。でも手紙が見つかるまで「何書いてくれたんだろう」って気になってて。郵便局に問い合わせたら手紙も見つかって、最終的には読むことができたんですけど。届いたときの喜びはすごかったです。
―手紙でのやりとりで印象深いエピソードはありますか?
カノ:私は台湾の子と会いました。手紙だと会話のテンポも気にしないし、価値観が違っても付き合っていけるというのがありますが、「実際に会った時、テンポが合わなかったら怖いな」と思ってました。でもLINEを少し前から交換して、手紙友達を越えた友達になれたので、現地であったときは「やっと会えたね」と。
みずほ:ずっと文通してた子がいて、その子が友達と一緒に3、4人で日本に来たことがあって、私も友達を誘ってご飯行きました。後にそのうちのひとりが私の学校に交換留学に来たんです!「遠い国の人なのにこんなことあるんだ。こんなに世界って小さいんだ」って思いました。
手紙の特性?
―メディアとして手紙の魅力、教えてください。
カノ:「空間ができること」だと思っています。 手紙を書いている時間も自分と向き合う空間ができるし、相手から手紙をもらって封を開ける時間も、相手に思いを馳せる空間ができる。いつ読み返してもその空間が表れて、自分の心や相手の想いに馳せられる。周りの喧騒にまきこまれず、自分のペースを持てるな。と。
みずほ:「温度感」ですね。LINEでも会話はできるけど、ものすごい時間が経ってから見ることはないし。でも手紙は何年経ってもその温度感が紙の上に残る。物理的なモノとしてあるので、ある種のお守りとして、遠く離れるときに、持っていこうとか。そういう温かさがあります。
―手紙はインターバルがあるから、そのまま終わってしまうこともありますか?
カノ:ありますよ。でも、時の流れの中で、そういうこともあってもいいのかなと。
みずほ:逆に相手を1人だけに絞るとうまくいかないのかなと。そういう時にお互いがうまくコミュニケーションをとれたらいいですね。
フリーペーパー「手紙暮らし」
―2017年からお二人で手紙にまつわるフリーペーパーを発行していますね。そもそも始めたきっかけは?
みずほ:趣味の選択肢として、海外文通っていう概念がみんなにないんじゃないかと感じたのがきっかけです。それが寂しくて。何らかの形でみんなに知ってもらいたいと思って始めました。
カノ:そこでフリーペーパーを作ろうとなったんですが、「手紙暮らし」と言いつつも、私たち(カノ・みずほ)はInstagramで繋がったんです。手紙とSNSって対比されがちですけど、どちらが良い悪いとかではなくて、私どっちも好きなので、アナログとデジタルの共存を追求してもらえたらなと。
みずほ:そもそものきっかけは同世代に向けて手紙の楽しさを教えたいということだったんですが、手紙好きの大人も読んでくれるんです。私たちのフリーペーパーをみて、「いいよね」と言ってくれます。ですが手紙への愛好心が強すぎて、「最近の若者はSNSばかりだ」とおっしゃられる方もいて。だから私たちは手紙とSNSの架け橋になれたらいいなと思ってます。手紙好きの人から、SNSの良さを伝えられたら、受容しやすいですよね。
―お二人はアナログ×デジタルを目指しているのですね。フリーペーパーを始めてよかったことは?
カノ:フリーペーパーを作る中で素敵な出会いがありました。最初は私たちが手紙の良さを広めようと思っていましたが、逆に私たちの世界が広がったというか。新たな発見があってよかったなと。
みずほ:学生にとってそういう出会いってお金に換えられないものだなと。
―これからやりたいことは?
カノ:現在進行形で手紙の魅力に気づいていっている最中なので、そういうわくわくを読者に届けられるように、編集とかできるところからスキルを身につけていきたいなと思います。それからペンパルから教えてもらったレシピを集めて本を作ったりしたい。手紙を通して新しいものを作っていけたらなと思います。
みずほ:今までは、手紙に振り切っていたけど、デジタルとの共存ということが大事だなと。Instagramで文通相手を見つけるのがいい例ですね。こういう共存の仕方を提案出来たらなと思っています。
親しみやすく気さくに話してくれたお二人は、意外にも手紙とSNS、デジタルとアナログの共存を目指していました。今夜はスマホの画面を見るのをやめて遠くに住む旧友に、いつもそばにいてくれる大切な人に、あるいは海を隔てた異国のペンパルに手紙を書いてみるのはいかがでしょうか。
手紙暮らし さんのWebサイト、各SNSはこちら
web :https://tegamigurashi.wixsite.com/tegamigurashi
Instagram: @tegamigurashi
Facebook: https://www.facebook.com/tegamigurashi/
インタビュアー:フク
フリーペーパー手紙暮らし
今だからこその手紙の魅力について考えるフリーペーパー。えもりみずほ、岸田カノの二人で2017年に創刊し、不定期で発行中。
「今の時代だからこそ、SNSと手紙を対比させるのではなく、共存させる。」そんな目線からの愉しみ方や、手紙にまつわる人々の想いが創り出すひと時を追い続けている。