違和感に耳を傾けよう/君のメディアvol.2

違和感に耳を傾けよう/君のメディアvol.2

あなたには、他の誰でもなく、自分自身を発信するためのメディアがありますか?

義務でも仕事でもなく、自分や大切な人のための媒体を持っている同世代(20歳前後)を取り上げる企画、君のメディア。

2回目はFridays for Future Kyoto/Japanという運動のオーガナイザーである中野一登さんに寄稿していただきました。

はじめに

2013年9月、深緑の山々と竹林を前に行き交う人を渡す嵐山の渡月橋が、大雨に荒れ狂う桂川に揺らされていた。

京都で生まれ育った私は、かつて家族とともに青いボートを漕いだ光景を無残に飲み込む濁流を前に、ただ恐れをなすことしかできなかった。長年営業してきたお店が浸水し、休業を迫られることにも、残念な思いでいっぱいだった。

あの出来事は、少年の頃から自然溢れる祖父母の家で魚や虫、草木と触れ合い、食し、その恩恵を受けることばかりに無邪気になっていた私にとって、初めて近く自然の脅威を近くに感じた瞬間だった。

                  ・・・・・・

みなさん、こんにちは。

現在19歳と6ヶ月、8月よりシンガポールの大学へ進学予定の中野 一登と申します。

「だれや?」と思われているでしょう。少しばかり自己紹介を。


私は幼い頃より、キャンプや旅行を通して自然や地域の文化に興味を持ってきました。現在は「Fridays for Future Kyoto/Japan」という運動でオーガナイザーとして動いています。
この運動を通して、京都では若者の議論の場を作って京都市に意見書を提出したり、国の政治に対しては小泉環境大臣との意見交換や環境省における会合に出席したり、政策を作る方に直接意思表示をしています。いわば「もっとしっかり気候変動対策せんかい!」と、この街や国のシステムを作っている人に訴えている感じです。

温室効果ガス排出削減目標の引き上げを求め街頭を歩いた4月22日(春なのに暑すぎた)

さて、皆さんにとっての「君のメディア」はなんですか。

私のメディアは「違和感」です。

私たちはまだ幼い頃、世界が新しくて、「なんでコンクリートに花咲いてるん」とか「なんでお兄ちゃんの方がお菓子いっぱいもらえんねん」とか思うわけです。世の中は「わけの分からないこと」に溢れていて、それはすべて好奇心や喜び、不安といった感情を育ててくれます。ただそんな世の中にも、本当に理解不可能でおかしい事がまかり通っていることがあります。

それが私にとっての「違和感」です。

私は気候変動の運動から、「違和感」に耳を澄ますことがいかに大切かを学びました。

「違和感に耳を傾けよう!マジでMAJIMEでいようや!」

これが皆さんに伝えたい、本稿のメッセージです。

ではこれより読み進めるにつれて、気候変動の現状や、私が気候変動問題と社会に感じる「違和感」を共有する時間を、皆さんと共にできればと思います。

気候変動は決して遠い世界の話ではない

あなたが小学生だった頃の思い出は、今も頭に残っているでしょうか。

「トラウマ体験」という言葉にあるように、どこかで感じた恐怖や不安が深く長く心に残り続けることがあります。

ここ数年で急増する災害は世界中で猛威をふるい、かつての災害が私の心を揺さぶったように、人々をさらなる恐怖と不安の海へと陥れてしまいます。

近年、日本でも気候変動の影響が顕在化してきました。

2013年9月、台風18号が京都府を直撃し、全国として初めて「数十年に一度の大雨」を表す大雨特別警報が発令されました。8年もたたないうちに、本稿執筆時点(2021年5月18日)で都道府県で大雨特別警報の発表があったのは53件にのぼっています(※1)。

そして記憶にも新しい2018年の夏、西日本を中心に全国的に広い範囲で大雨が降り続いた「平成30年7月豪雨」では、京都を含む1府10県に特別警報が発令され、現時点で224名もの方が命を落としています(※2)。この豪雨にも、地球温暖化の影響が大きくあらわれています。気象庁気象研究所等のチームが行ったシミュレーションでは、瀬戸内エリアにおいて「50年に一度のレベル」の大雨が発生する確率が、温暖化の影響を入れた場合には4.8%(約21年に一度)だったのに対し、温暖化がなかった場合には1.5%(約68年に一度)と推定され、温暖化により大雨の発生確率がおよそ3.3倍となっていたことが示されています(※3)。

気候変動は、新型コロナウイルスなど感染症の蔓延にも大きく結びついています。ハーバード大学大公衆衛生大学院アーロン・バーンスタイン教授は、気候変動で動物が暑さから逃れるために北上し、他の動物との接触が増え病原体を共有する可能性があることを指摘しています。また大規模な家畜農場のための森林破壊も、生物から生息場所を奪い、病原体を有する動物と人間との接触リスクを高めます(※4)。

私はこうした現状を知って、「気候変動は遠い世界の話なんかじゃないな」と、心から思いました。

そして、これから特に強調して述べることは、「気候変動は社会のあらゆる不平等につけこみ、それを助長する」ということです。

気候変動がもたらす格差と、私たち。普通に生きたいだけなのに。

日本を含めた先進国とも呼ばれる経済的に裕福な国々は、気候変動の影響を前に、迅速な対策を講じ、それを軽減し、次の災害に備えつつ早い段階で復興することができます。そんな日本でさえも、2019年の台風19号の際、ホームレスの方々が避難所から体臭などを原因に入居を拒否されるなど、経済的に脆弱な人々にしわ寄せがいきます(※5)。また、内閣府の男女共同参画の視点からの防災・復興の取組に関する検討会でも、自然災害などの発生時には普段の性別による役割意識によって家事や子育てなどが女性へ集中し、DVや性被害が生じるといったジェンダー課題が拡大・強化されるとの指摘が述べられています(※6)。

そして、化石燃料を燃焼することによる被害は貧富やジェンダーの格差のみならず、空や海を越えて、二酸化炭素をほとんど排出していない暮らしをしている人々の文化や命を奪い去っています。実際に、Oxfamの調査では世界全体で所得の高い10%の人々が、二酸化炭素の排出量の約50%を占め、所得の低い35億人はたったの約10%を占めることが明らかになっています(※7)(下図を参照)。

この「豊かな」システムが、裕福な人々に二酸化炭素の排出を早く大きく削減しないことを許容している限り、最も被害を被ってしまうのは、社会的に最も弱い立場に置かれた人々なのです。

所得とライフスタイルによる排出の関係(写真:Oxfam

まさに私がいま運動で声を上げているようになったのは、こうした「気候変動に加担していない人々が最も影響を受ける不条理」に対して、強い違和感と憤りを感じたことがきっかけです。

違和感に耳を傾けよう!マジでMAJIMEでいようや!

こうした違和感は、身の回りに溢れています。例えば、学校で先生も説明できないような校則や、「前ならえ」に違和感を感じる人は私の周りにも少なくありません。家族や生活のことを全く考慮しない労働環境や、お年寄りの男性に偏った政治の話しあいもそうです。こうした私たちが日常で感じるような些細な違和感は極めて重要なものです。

私は気候変動対策の強化を求めるなかで気がついたことは、「自分だけだと思っていた違和感は、案外みんなに共通している」ということです。そこで初めて「この違和感は私のせいでも友人や家族のせいでもなく、社会のシステムのせいなのかもしれない」ことに気がつくのです。だからこそ、まずは違和感に耳を傾けて、そこから声をあげるかあげないかを、自ら考え判断できることが大切だと思います。

私が今抱いている大きな違和感は、違和感に向き合う人が冷笑の対象となる空気感です。その冷笑は「マジメ」というかたちであらわれることもあります。

もちろん、違和感に向きあう道は多様です。誰かに相談する道もあれば、ひとりで考える道もあります。私にとって気候変動は、一人で抱え込むには辛すぎるものでした。しかし気候ストライキに参加して、同じ思いを共にする人と出会って、話すことで、心の荷物を下ろすことができました。今は京都中、日本中、世界中の人々と、違和感を共にしています。

時として社会から笑われることはあっても、マジメでいることを恥じる必要はありません。

気候危機をこえて

さいごに少しだけ、気候変動の話をします。
気候変動で災害がいっそう深刻化し、それが連鎖すれば、社会に不安定と無秩序を生む要因となりえます。

これからは熱波と感染症の蔓延が重なる可能性も否定できません。

どこかの国で干ばつが起こり、食糧が欠乏し、はるばるやってくる方を、日本はおもてなしの心で迎えられますか。

社会の歯車に耳を済ませると、キシキシと音が聴こえてきます。

今はその音に耳を傾け、立場をこえて、豊かな未来の土壌を耕すときです。

だから私は今日も明日も、すべての人に公正な気候変動対策を求め続けます。

最近気になったことなのですが、Instagram のストーリーでイエメンでお腹を空かせた子供を支援するSave the Childrenの広告が大きく拡散されました。ストーリーを回しても寄付できるわけではないのですが、だからといってアクションをした人を冷笑する資格は誰にもありません。例えそれがインスタのストーリーでも、デモやマーチでも署名でも、投票でもアートでも、ムーブメントに加わるはじめの一歩は、大きな勇気を要します。それと同様に、声をあげないことを自ら選択する人がいることも忘れてはいけません。もっと身の回りの違和感に耳を澄ませる、そして声をあげる人にもあげない人にも寛容な社会をつくれたらいいなと私は思います。

この記事があなたにとって、今日か明日、1週間後、1ヶ月後、もしくはその先、身の回りの違和感にもっと耳を済ませてみる、そのきっかけを作れていたら嬉しいです。

謝辞

いつも気候変動対策の強化を共に求めながら、ジェンダーや性、貧困や労働など、様々な問題についての学びを共にするFridays For Future Kyoto/Japanの方々に感謝します。ありがとうございます。

また、私はMAJIME ZINEさんの「夢中でマジメになってしまう その瞬間のきらめきを切り取るZINE」というコンセプトが好きです!誰だってマジメになる瞬間はあって、今ではそれが冷笑されてしまうこともあるけれど、そうした些細で壮大な瞬間にささやかなスポットライトをあてる、そんなマガジンが私の住む街の大学にあることにとても勇気づけられます。これからもよろしくお願いします。

参考文献

※1

Kitamoto, A. 大雨特別警報 – 統計情報 | 特別警報・警報・注意報データベース | 気象リスクウォッチ. (n.d.). Retrieved July 2, 2021 from http://agora.ex.nii.ac.jp/cps/weather/warning/stat/33/

※2

気象庁. 平成30年7月豪雨(前線及び台風第7号による大雨等)平成30年(2018年) 6月28日~7月8日. (2018). Retrieved July 2, 2021 from

https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/bosai/report/2018/20180713/20180713.html

※3

地球温暖化が近年の日本の豪雨に与えた影響を評価しました | 国立環境研究所. (2020). Retrieved July 2, 2021 from https://www.nies.go.jp/whatsnew/20201020/20201020.html

※4

Bernstein, A. “Coronavirus, Climate Change, and the Environment: A Conversation on COVID-19 with Dr. Aaron Bernstein, Director of Harvard Chan C-CHANGE”. (n.d.). Retrieved July 2, 2021 from https://www.hsph.harvard.edu/c-change/subtopics/coronavirus-and-climate-change/

※5

“Typhoon Hagibis: Homeless men denied shelter in middle of typhoon”. (2019). BBC. Retrieved July 2, 2021 from https://www.bbc.com/news/world-asia-50052615 

※6

内閣府 男女共同参画局. 男女共同参画の視点からの防災・復興に関する検討会からの提言 〜ジェンダーの視点が災害対応力を強くする〜 [pdf]. (2020). Retrieved July 2, 2021 from

https://www.gender.go.jp/policy/saigai/fukkou/pdf/fukkou-teigen.pdf

※7

World’s richest 10% produce half of carbon emissions while poorest 3.5 billion account for just a tenth. (2015). OXFAM International. Retrieved July 2, 2021 from

https://www.oxfam.org/en/press-releases/worlds-richest-10-produce-half-carbon-emissions-while-poorest-35-billion-account

Richest 10% produce half the world’s CO2 emissions [image]. (2015).

Oxfam International. Retrieved July 2, 2021 from https://twitter.com/Oxfam/status/672000710788169728

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中野一登

京都生まれ京都育ち。もうすぐシンガポールの大学に進学。変顔は得意。お絵描きは好き。

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