学生映画の魅力を伝える/東京学生映画祭インタビュー
日本でもっとも長い歴史を持つ国内最大規模の”学生映画”の祭典「東京学生映画祭」(以下、「東学祭」)。第32回となる今年は「わたしはいま可能性をみてる」をスローガンに掲げ、10月19日~23日に開催されます。著名な映画監督も数多く輩出してきた歴史ある映画祭は、学生だけの運営によって成り立っていることをご存じでしょうか。今回は、そんな映画祭を支える学生のみなさんにお話を伺いました。
【参加者】
浅野ジーノ さん
第32回東京学生映画祭代表。早稲田大学3年。活動3年目。
好きな映画・監督:インディーズ映画、スタンリー・キューブリック、デビッド・フィンチャー
宇佐美綾香 さん
大東文化大学2年生。活動1年目。
好きな映画・監督:ミュージカル映画(『ラ・ラ・ランド』)、李相日
宮本陽香 さん
武蔵大学2年生。活動1年目。
好きな映画・監督:ソフィア・コッポラ、ウェス・アンダーソン、山戸結希、白石和彌
古川真裕子 さん
東洋大学2年生。活動1年目。
好きな映画・監督:邦画中心(『南瓜とマヨネーズ』)、グザビエ・ドラン
目次
団体に入会したきっかけ
--東京学生映画祭に入会したきっかけはなんですか。
浅野:小説や映画が好きで、学生のうちにそういう活動をしたいと思っていました。東京学生映画祭は配給する側というか、映画を集めてそれを上映する側。そういったバックアップ側の活動をしたいと思って入りました。
宮本:アップリンク吉祥寺にあったメンバー募集のチラシを見て、「ここに入ったら映画好きの友達ができそう」と思って。それが楽しみで入りました。これまで、自分は中学の頃から合唱コンの役員とかやりたがるようなイベント大好き人間でした。サークルに入るなら、マジメな団体がいいなあと思って、体験に行ってみて、マジメに話し合ったり、やることやっていて、自分でも馴染めそうだと思ったのがきっかけです。
宇佐美:私は自分の学校の映画サークルに入っていたんですけど、コロナで活動できなくて。インカレで活動している団体がないかなと思ってTwitterで見つけました。なんかマジメっぽいな、ちゃんと活動してそうだなって思って。
古川:私は、去年か一昨年に、別の映画祭のボランティアをやったことがきっかけで映画祭ボランティアへの興味はあったんです。でも、大学1年間何もやらず過ごしてきて、このまま何もやらないで終わっちゃうのは怖いと思って。映画祭運営という興味がある分野っていうのと、映画が好きっていうの、ぜんぶ相まって、「ここだ!」と思いました。
学生映画の魅力について
--学生映画ならではの魅力を教えてください。
浅野:自分と同年代の人たちが、何を考えて、何を作りたくて、みたいなクリエイティビティを見られることが自分としては大きいと思っています。成熟した映画を見るよりも、自分と似た感覚で映画を作っている人たちをみると、学びも多いですね。あと、映画を語るとき、フラットな立場で映画について話したり、業務ができるのも魅力ですね。
宇佐美:学生映画は、ジーノさんの言う通り、私たちがみる商業映画とは違う面があると思う。学生らしい「拗らせ」が見えることも魅力だと思います。作品をみていると、暗いな、変わっているんだろうなっていうのが見える瞬間があると面白いです。
--インディーズの定義ってどんなものなんですか?また、インディーズではできるけど、メジャーではできないことってどこにあるんでしょうか?
浅野:定義は曖昧ですが、ざっくり言うと、インディペンデント。大きな会社ではなく、独立した人脈、自主的に映画を撮るってことじゃないかな。
メジャーだと、R指定などがあってお客さんの層が限られるし、できるだけお客さんみんなにウケるように作られた作品が多いんですよね。インディースなら、それがあまりないので、やりたいように作れます。比較的小規模なので、こまかい人間関係とか、些細なことにフォーカスを当てて表現することができます。
宇佐美:最近だと、『カメラを止めるな』はインディーズ映画ですが、ワンカットの手法がすごく話題になりましたよね。独特な手法とかってインディーズならではだと思います。今回の応募作でも、ワンカットが10分くらい長回しの作品があって衝撃でした。
浅野:学生映画らしさって、①出演しているのが学生ばかりだとということと、②テーマが青臭いというか、若者のあれこればっかりだということ。それがインディースの中でも、特に学生映画の魅力なのかなと思います。
なぜ「好き」だけに留まらず運営まで行うのか―運営の裏側について
--学生映画をサポートするに至る動機やモチベーションはどこから来るのでしょうか。
宮本:私は入る時に、『ちはやふる』の監督や『溺れるナイフ』の監督もこの映画祭出身ですって聞いて。これから入って会議に出席すれば、未来の有名な映画監督の作品をみられる、評価できるっていうところもワクワクします。そこが大きなモチベーションかもしれないですね。
古川:以前関わっていた映画祭の運営団体では、中心で動かれている大人の下で言われたことをやっていました。
東学祭では、みんなが同世代だからこそ、同じ立場で意見を言い合えます。それでもっと頑張りたいと思えて、やりがいにつながっています。
宇佐美:意見ぶつけすぎてたまに喧嘩みたいになってますけどね(笑)
浅野:日本の大きな学生映画祭はうちを含めて3つあるけど、バックに企業や大人がいないっていうのはうちだけ。何から何まで学生が決めてるんですよね。自分で全部決められるからこそ、やりがいを感じられるのかな、と思います。
--運営がやっていることって、見ている側からは見えにくいですよね。今やっていて、こういうことが楽しい、こういうところが難しいというところは。
宇佐美:ここに入って、メールのやりとりがいっぱいある〜と思って。監督へとか、上映に必要な一つずつの契約書を作るためのやりとりとか、上映する会場のメールとか、一日に何個もそういったものが飛び交う通知が来る。そういうのを大変だなあと思いますね。監督さんをお呼びする交渉に1ヶ月かかったりとか。
古川:絶対に社会人になったら必要なことを今できている感じがあって、それはありがたいと思いますね。普通の大学生活を送っていたらできないことだと思いますし。「お金は勝手に発生するものじゃない」とか、これから絶対生きてくるだろうことだなって実感できます。
「セレクション」の難しさと楽しさ―作品に向き合う
浅野:映画そのものに向き合うことこそ、一番大変だなあと思います。
今年は、全国から224本の作品が集まりました。全部の作品を合わせると、6000分ぐらいはあるんですよ。一部の学生は、その6000分を全部見たうえで色々話し合います。私たちは批評家でも有識者でもないけれど、どのようにセレクトすれば良いかを考えながら、作品に向き合っています。
宮本:セレクション(候補作品を絞っていく会議)はやっぱり大変ですね。言い合いが発生しても、どちらの言い分も間違っていないっていう。時間をかけて話すしかないって感じですかね。全員が満場一致で拍手する作品は存在しないので、しょうがないんですけど。セレクションは、一番大変だけど、一番楽しいところでもありますね。
--映画って総合芸術ですよね。音楽もあれば、カメラもあれば、編集もあれば、役者もいるだろうし。それらって、同じ土俵で比較すること自体難しいと思うんですが、どうやって比較しているんですか?
宇佐美:難しいですね。結構好みが出ると思います。わたしは音楽が凝っていたらいいなと思ったり。気になるところや「いいな」と思うところは人によって違うので、結局、全部集合された、全部見た後の全部の感想になるのかなと。
例えば、「感動した」は大事ですね。さらに「なんで?」に対する答えがあれば。勢いも大事にしつつ、「じゃあなんで?」っていうのも大事にしながらやっています。
浅野:作品によっては、必ずしも感動がゴールではない時もあります。例えば、残酷な現実を見せて、心に傷をつけるような作品もありますし。作者が意図していることとか、表現したいものに対してこんなプロセスをとっているのが素晴らしいんだ、みたいなのが伝われば、それは「いい作品」だと言えると思います。何だか凄みがある、平たく言ってしまえば、「将来を感じさせる」という要素も大事なのかなと思います。
--なるほど。「こういう作品に惹かれる」というような傾向はあるんですか?
宮本:面白い「拗らせ感」に加えて、最低限良いと思える撮影や演技の技術の両立が大事だと思いますね。どちらかだけだったら、ここが惜しいねってなっちゃうし。
浅野:技術的な面で、最低ラインはあるような気がします。同じ「拗らせ感」でも、質は色々あるんですよね。例えば、小説でも、内容は面白いけど文章は下手だと読みたくないし。クオリティの面は差異が出てきますね。
--セレクションに関して。アニメーションも、実写もあったりして、ジャンル別に評価するみたいな試みもあったりするんですか?
浅野:映画祭は、賞を決めるためにやっているという側面が強くて。今回もグランプリ、準グランプリを決めます。今年の私たちは、東学祭コンペ部門っていう、一つの部門だけを設けています。どんなジャンルの映画も一つの評価軸ではかるっていう形。去年だったら、短編と長編を分けていました。その前なら、実写とアニメを分けたりっていう感じで、区分けして審査していました。ですが、今年は全部ひっくるめてごちゃ混ぜで評価することにしました。
宇佐美:アニメーションって審査が難しいんですよね。絵って人によって好みは全然違います。何が好み、何がうまくて何が下手とか、すごく考えさせられる悩みではありますね。
今年の作品について―コロナ禍における変化
--2020年に撮られた映画が多いということで、コロナ禍で撮られたと思いますが、今年ならではの特徴はありましたか。
宮本:ディストピア系をやっている人もいて、これはコロナの影響かなあとか思うものはありました。
古川:作った方が意識をさせたいかどうかはわからないが、見る側としてはコロナの影響を感じさせられるものは0ではなかったように思います。
浅野:zoom映画(zoomで撮影した映画)もありましたし、全体的にフットワークが重くなる傾向が見られました。ロケをして撮るというよりは、家の中や身の回りで撮っちゃうとか。ただ、多くの人がコロナに引っ張られすぎて、むしろバリエーションが……。それはそれでいいのかなとも思いますが。
最後に―それぞれの想い
--団体としては、学生で、映画を支援して、作った学生がメジャーに進めるようにということだったと思いますが、活動する上で、こういうことをやりたい、という想いはありますか。
宇佐美:私は、世の中に貢献という最終的な目標はあまり考えていなくて。面白い映画が見たいというきっかけで入って、今後もそのモチベーションでやっていくと思います。自分が見つけた面白い映画を、もっと他の人にも見てほしい、「こんな面白い映画を同世代の人が作ってるんだよ」っていうのを広めていけたらいいですね。
古川:大学生になって、人脈が広がっていくのを身近に感じることが増えてきました。東学祭で活動させてもらう中で、関わることがなかったはずの人たちと繋がり、さらに広がっていく人脈を絶やさずにより深いところまで繋げていけたら、活動を行う意義があるのかなと思います。
宮本:どんなにいい映画があっても、届かないと意味がない。届かないことがないように、拾う、入選させて世に届ける。そこに関わりたいですね。学生の監督が出世することができたら資金も増え、監督がやりたいようにやりたいことをできるようになる。将来の映画界を担う学生が現れるかもしれないという楽しさ。突き詰めると「”自分が”楽しい」という想いで動いています。
浅野:去年の十一月ぐらいからやってきたんですが、第32回が始まった時点で、3、4人しかメンバーがいませんでした。学生映画って、マニアックだし、興味がないと続けられないというのがあリます。でも今、結構な人数の人がちゃんと取り組んでくれる。それが嬉しいですね。映画の未来のためだとか、学生映画のためだとかより、委員のみんな、先輩方に感謝しながら取り組みたいというのが一番の想いです。
来てくれるお客さんや関係者の方にもしっかり向き合って、晴れ晴れと引退したいと思います。
--最後にひとことお願いします!
浅野:このインタビューを見てくださった方は、ぜひ当日お越しいただきたいと思っています!映画を作っているのも運営しているのも学生なので、何より学生に来てほしいです。自分の好きなものに真っ直ぐに取り組む学生監督たちの姿勢に、勇気をもらえると思います!
Youtube : https://www.youtube.com/c/Tougakusai/videos
「東学祭」の名で知られる日本最大規模の学生映画祭。学生の製作した映像作品を全国から募集し、コンペティション形式でグランプリが決定する。全て学生のみで企画・運営を行っており、2021年で32回目を迎える。学生映画と映画界全体の振興に貢献し、映画を志す学生映画界の「架け橋」となっていくことを目的に日々活動している。
【開催概要】
名称:第32回東京学生映画祭
日程:2021年10月19日~23日
会場:渋谷ユーロライブ(10月19日~22日)、LOFT9Shibuya(10月23日)
上映作品数:東学際コンペティション部門…18作品。予告編はYoutubeチャンネルからご覧いただけます。
興味を持った方は是非HPから詳細を確認し、映画祭へ足を運んで見てください‼︎
スダチ
編集部員。新潟市出身の大学生。社会学専攻。
好きな言葉:「運鈍根」
編集部での役割:ざくざく編集(派)、SNS運用のお助け係
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