「宇宙でいちばん純粋。」な映画の応援 / 東京学生映画祭インタビュー vol.2
学生のみによって運営される、国内最大規模の学生映画の祭典、「東京学生映画祭」(以下、「東学祭」)。第33回となる今回は、「宇宙でいちばん純粋。」をスローガンとして、8月20日、21日に開催されます。昨年度に引き続き、運営の皆さまに取材します。今回は学生映画の作り手も登場。学生と映画界の架け橋として学生映画を世に送り出す、東学祭運営メンバーの視点から、学生映画の「眩しさ」の源泉に迫ります。
【参加者】
飯島雅 さん
第33回東京学生映画祭広報担当。フェリス女学院大学2年生。活動1年目。
最近の好きな映像作品:Netflixオリジナルのドキュメンタリー・シリーズ「ストリート・グルメを求めて」
遠藤百華 さん
高校生の時に短編映画を制作。デジタルハリウッド大学1年生。活動1年目。
好きな映画:ピクサー長編アニメーション20周年記念作品「インサイド・ヘッド」
「宇宙でいちばん純粋。」な映画の応援
——東学祭さんは毎年、運営メンバーも方針も変わるんですよね。年ごとに集まる作品の傾向も違う。その中でも貫かれている、「東学祭らしさ」、共有されているポリシーを伺いたいです。
飯島
よく使うのは、「迷ったら自分が応援したい映画を第一に。」という言葉です。学生監督と同年代の自分たちだからこそ、率直な感想が出たり、近い目線に立てるメリットはあると思います。それはずっと貫いていきたいですね。
遠藤
自分たち運営の応援したいという純粋な想いもあってのスローガン、「宇宙でいちばん純粋。」なのだと思います。学生監督が純粋な想いをもって制作した映画をセレクションする中で、私は「この映画監督を応援したい」とか、「この映画自分の心に来たな」ってものを選びました。
——「宇宙でいちばん純粋。」を今年のスローガンに決めた背景は。
飯島
去年のグランプリの方が、東学祭に対して言ってくださった評価の中の言葉です。感銘を受けて今年のスローガンにしました。
——「純粋」というワードは、どんなところから来ているんでしょうか。
飯島
作品の表現が、若いからこそできる、オブラートに包んでいない純粋なものだからだと思います。
——純粋な想いで応援したくなる学生監督とはどんな人なんでしょうか。
遠藤
学生映画って、1人の学生がなにか伝えたい想いがあって映画を作りあげると思うんですよね。人に伝えたい思いが学生の頃にあって、それを自分の力で作りあげていくことができるのが学生監督。その背中を押したいという思いもあります。
——後押しをしたいと思わされるのはどんな作品なのか、教えてください。
遠藤
東学祭とは関係ないんですけど、精神的な障害をもっている学生監督が、目に見えないからこそ言葉で伝えるのが難しい自分の苦しみをうつした映画です。弱さや苦しさをためこまずに「誰かに伝えたい」と、映像にしたのはすばらしいなと。
飯島
その映画も含めて、学生映画は、社会に対してどう、というのは少なくて、自分のことを知ってほしいというスタンスの作品が多いかなという印象です。
——学生映画は、自分という人間を伝える手段でもあって、モチベーションがしっかり自分に結びついている。だからこそ純粋な想いがつまっているということですね。
飯島
そうですね。それ以外にも、学生だけで企画・運営を全部担っている私たちの、自由な議論の仕方とか、企業様とのやりとりとかも「純粋な」と評価していただいたんじゃないかと思います。
セレクションはガードなしのボクシング
——学生だからこそ自由な運営ができる、というのはどういった面で感じますか。
飯島
特に思うのは、上映作品を決めるセレクションです。応募された作品を、運営の33人で全部見て、議論しながら決めるんですけど。意見の衝突の仕方が、学生だからこそできる、ガードなしのボクシングの試合みたいな感じなんです。
——映画が好きで集まった方々ばかりだから、こだわりのぶつかり合いが起きるんでしょうかね。どうやって納得まで落とし込むのでしょうか。
飯島
この作品をどうしても上映したいって人が前に出て、ホワイトボードに解釈を書き出して、一つ一つ議論していくやり方です。好きな作品を選んでホワイトボードの前に行って、受けた指摘を論破できない場合、めちゃくちゃ攻撃を受けるのはしんどいところです。
——作品を選ぶということは、主観から切り離せないところがあると思うのですが、どう折り合いをつけておられるのですか。
遠藤
一番は自分の上映したいとか、この学生監督を応援したいとかの希望ですけど、自分以外の人が見たらどう思うのか、ということを考えて選ぶようにしています。一般的な視点に立つというか。
——どれくらい運営の方で決めるんですか?
飯島
1次審査から3次審査までです。3回の審査を経て決定した上映作品の中から、プロの審査員にグランプリを決めていただく形にしています。1つの作品にかける時間は、審査を重ねれば重ねるほど長くなります。2次、3次までいくと、1つの作品にかける時間がすごく長いんです。今年は3~4時間ぐらいかけましたね。
——相当時間かけて審査されてると。
飯島
1、2次審査は3か月強かけて審査します。どうしても総数が多くて、今年だと204本もあるので。3次審査は合宿で、1日から2日かけて決定します。
遠藤
自分で作る大変さを知っているからこそ、毎年200作品近く応募されているのは、本当にすごいと思います。
学生が映画を制作するのは本当に大変
——制作もされている遠藤さんに、学生映画の大変さを詳しく伺いたいです。
遠藤
私は脚本も書いているんですけど、 まずどんな物語構成にして、どんな登場人物を出せば見る人が飽きずに、プラス想いを受け取ってくれるか。それを考えるのにすごく時間がかかります。脚本が完成したあとも、台詞とかの言葉選びもいろんな人の意見をもらって決定していくんです。撮影となると絵コンテも自分たちで考えないとですし。1つの映画を作るのには、たくさんの時間と労力を使います。学生監督は大学の勉強やバイトと両立しながら作品を作っていると考えると、完成していること自体凄いと思います。
——大変さを知っていればこそ、作品を選ぶ側に立つプレッシャーや責任が強くなると思うんですが、いかがですか。
遠藤
欲を言えば全部上映したいですけど、自分たちが全力で絞った映画を見て、お客さんが満足してくれたら嬉しいです。セレクションを経て外れてしまった作品も、それをバネにして次に向かってもらえたら。
——今作っている脚本が完成したら、東学祭への応募は検討されますか。
遠藤
応募したいんですけど、何言われるか怖いです。みんな真剣に投票するので。出してみようとは思います。やっぱり人から意見をもらってこそなので。
——でも、それだけ真剣に本音で向き合ってもらえるというのは、つくった側、あるいはその作品にとって良い場所ですよね。つくる側は、心血を注いで、魂を削ってつくる。そして、それを審査する側も、「自分」の存在を賭して評価する。それは作品にとって、絶対に必要な場ですよね。
セレクションを経て変化した映画観
——セレクションで学生映画をたくさんまとめて見る。そんな、運営委員にしかできない経験をしてどんなことを感じられましたか。
飯島
映画は好きだけど、今まで学生映画は見てこなかったんです。セレクションのためにたくさん見て、商業映画を見るときにはない、眩しさを感じることがあって。
自分にはない表現力とか、自分ではできない制作の仕方とか、すごいなっていう感心の中に、眩しさがある。そこも学生映画の魅力の一つじゃないかなと思います。
——やっぱり近い年齢の人だからこそ、強烈にあてられるんでしょうか。
遠藤
同世代だからっていうのは、大きいです。台詞の言葉選びや映像のきれいさだったり、「こんな表現方法もあるんだ」、とか、「こんな映画を作る学生監督は普段どんなことを考えて生きてるんだろう」と考えさせられて、すごくいい刺激になりました。
——映画って没入感がすごいから、世界の見え方が変わるぐらいの衝撃があると思います。運営に関わったことで、見え方が変わったという実感はありますか。
飯島
映画に対しての見方が変わりましたね。ほんとに率直にメッセージを入れてくる作品が多いので。もともと商業映画しか見てこなかったから、ここまでストレートでいいんだって思って、映画を楽しめる幅が広がりましたね。
遠藤
東学祭の運営に携わって、同世代の感性に触れ、色々な考え方や価値観を自分の中に落とし込んで考えるようになりました。映画作りという大変なことを、こんなにもたくさんの学生監督がしてると知って、良い刺激になり、自分の行動力に繋がっています。
東学祭は誰のためのどんな場所?
——学生が映画を作るのは大変な一方で、需要と供給のバランスでいうと、どうしても供給の方が多い。それを踏まえて、なぜ学生映画を集め、選び、時間をかけて自分たちがいいと思うものを上映し続けておられるのでしょうか。
飯島
やっぱり学生映画ってあんまりスポットライトが当たらないのが現状なので。本祭に第一線で活躍してらっしゃる制作の方々を招待して、学生監督のみなさんが交流を図る場になればと思って活動してます。学生監督の今後につながる出会いの場として使っていただけたら。
——その場を設けることで、学生監督にどうなってほしいと思い描いていますか?
飯島
自分の作品に誇りをもってほしいです。背中を押してあげられるような場でありたいとは、大前提として思っています。
今活躍されている監督さんって、学生のころから撮ってる方が多いと思うんです。だから、学生の頃のすごい初期作だけど、スクリーンで上映されたっていう経験が学生監督さんの糧になればいいと思っています。実際に東学祭で入選したっていう経験を誇りに思って、プロフィールの中に書いてくださっている監督さんもいて。
そういう面でも、続けて行かないとなって思いますね。
——今、鑑賞のスタイルが東学祭も含めて配信を取り入れたものに変化している中で、時間の決まった上映会にこだわっておられる理由ってあるんでしょうか。
飯島
やっぱりスクリーンで作品が流れるっていうことは、映画好きからしたら大きいことで。それと、審査した委員とか、観客からも感想が直接もらえること。これが強いと思います。
学生監督の作品は、配信だと感想をもらえる機会が少なくなってしまいます。感想がいろんな幅の人にもらえるのは、上映会ならではだと思います。
——鑑賞会では、どういう風に感想を集める仕組みを用意されているんでしょうか。
飯島
今年はアンケートを紙で実施します。これは回収率を上げるためです。あとはトークショーの時間を設けているので、審査員のプロの映画監督の方々からの批評をいただけます。
——プロの映画監督と学生監督の出会いの場が、トークショーなんですか?
飯島
トークショーもそうなんですけど、21日終わりにレセプションを行います。そこでプロの監督さんや制作の方をお呼びして、入選監督のみなさんと交流を図ってもらう形にしています。
——なるほど、入選したらプロの映画監督と知り合うきっかけができるんですね。
飯島
はい。プロの目線でどう思ったか伝えていただく場ができればいいと思っています。
——最後に、今年の東学祭のポイントは。
飯島
長いセレクションの中で、応援したい作品というのをキーワードとして、私たち委員が一番応援したい作品たちを選びました。トークショーにお呼びした監督たちも、すごく有名な方が多くて。入選した学生監督の方々と、どんな話が聞けるのかも楽しみです。
今回取材させていただいた第33回東京学生映画祭は、8月20日、21日に渋谷ユーロクラブで行われる。
ぜひともHPから詳細を確認し、「宇宙でいちばん純粋。」な映画への想いが結集し、響き合う現場へ足を運んでみていただきたい。
東京学生映画祭に関する過去記事はこちら→学生映画の魅力を伝える/東京学生映画祭インタビュー
第33回東京学生映画祭
「東学祭」の名で知られる日本最大規模の学生映画祭。
学生の製作した映像作品を全国から募集し、コンペティション形式でグランプリが決定する。全て学生のみで企画・運営を行っており、2022年で33回目を迎える。
学生映画と映画界全体の振興に貢献し、映画を志す学生映画界の「架け橋」となっていくことを目的に日々活動している。
Twitter: @tougakusai
Instagram: @tougakusai
チケットサイト:http://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/02k863gtqaf21.html
HP:http://tougakusai.jp/