超分野大喜利の舞台裏/異分野融合にかたちを与える
2021年9月に開催された第1回から、異なる分野を背景に持つ大学院生・社会人研究者が集まって対話を繰り広げ、時には衝撃の化学反応を生み出してきた『超分野大喜利』。
MAJIME ZINEでは第2回から計6回にわたって密着を行い、レポート記事の作成という形で携わってきました。
今回は、「超分野大喜利」誕生前夜に注目します。異分野融合によって生き生きとした知見の衝突を起こすシステムを作り上げた運営の皆さんに、「超分野大喜利」のかたちづくりについて語っていただきました。
超分野大喜利の誕生
「色々な専門分野の人で大喜利したらおもしろくないですか?」
「超分野大喜利」のアイデアが生まれた瞬間でした。「それはきっとおもしろいだろう!」と直感した私たちは、今日に至るまで8回の超分野大喜利を開催。そして今、その直感が正しかったことを確信しています。この記事では、運営にあたった私たちの超分野大喜利に対する思いとこれからの展望について、お伝えできればと考えています。
本企画の企画者は、京都大学大学院総合生存学館という少し変わった名前の大学院の在学生・修了生です。昨今、多くの大学で「異分野融合」や「学際的研究」という言葉が唱えられています。私たちの所属する総合生存学館も、その一つです。
しかし、異なる学問分野を専門にする人々が交わることでどのようなおもしろい発想が生まれるか、ということに対して多くの研究者や学生は実感を持つことができずにいました。
学問分野を超えたコミュニケーションからおもしろい発想や参加者の認識の変化が生まれるのか?あるいは、どのようなコミュニケーションの場でそれらを生み出すことができるのか?
これらの疑問に答えるために、いろいろな学問分野の背景を持つ大学院生や若手研究者・社会人が集まり、1つの学問分野では答えが出せない問題について考える学際的対話の実験の場とし、超分野大喜利を創り出しました。
超分野大喜利の設計
超分野大喜利では話題提供者が提示する問いについて参加者同士が一緒に考える対話を行います。同じ問いについて考えていても、それぞれの参加者の問いに対する考え方や注目するポイントは違います。参加者が専門にしている学問分野や研究対象、その他の経験や価値観などの構成要素は与えられた問いに対する反応と関係しています。さらに、対話の場において、他の参加者の発想を聞き、その発想から新たなアイデアを生み出すことは、参加者同士の発想の相互作用を表しています。
超分野大喜利は参加者の構成要素と発想が結び合わさりながら、新たな発想を生み出していく空間であると考えています。このような空間を生み出すために、「自分/テーマに向き合う」「1人/みんなで考える」という2つの軸を考えて、対話の中で下の図のサイクルを1周することを意図して超分野大喜利の設計を行いました。
i) アイスブレイク:一緒に対話をするグループメンバー同士(5~7名程度)がお互いを理解し合うためのアイスブレイクとして、自己紹介マトリクスを使ったアイスブレイクを行います。自己紹介マトリクスとは、自分の名前の周辺に自分に関係しているキーワードを記入したもので、お互いのマトリクスの中から気になったキーワードについてお互いに質問しあいます。
ii) 大喜利:アイスブレイクのあとは大喜利①として、話題提供者が提示した問いについて参加者に回答してもらいます。グループ対話後の大喜利②では、全く同じ質問を再度参加者に投げかけます。大喜利①での自分の回答と比較することで、対話の中で参加者の考え方がどのように変化したかを認識することができます。
iii) グループ対話:大喜利①と大喜利②の間に実施するグループ対話が超分野大喜利の中心です。大喜利で回答した問いを深く考えるための論点を用意し、グループ対話を行います。グループ対話は大喜利①の時点では、1人で考えていた問いに対して、お互いの意見を理解し合いながら、それぞれが自分の考えをアップデートしていくプロセスです。
iv) 振り返り:振り返りでは、参加者がそれぞれの構成要素や発言同士の関連性を考えて、自分の考え方を構成する要素の認識を捉え直ます。対話の場で参加者の発言や構成要素を見直しながら、自分の考えがどのように他の参加者の発言と相互作用しながら形成されたかを認識することができます。
振り返りのあとには、毎回次の図のような参加者の構成要素と発言の関係性を表した図ができます。この図に、私たちが作り出してきた超分野大喜利という空間のおもしろさが凝縮されていると考えています。
対話の「衝撃」
超分野大喜利に参加した方が次のようなコメントを寄せてくれました。
私は気候変動問題に取り組む文化系の研究者です。
宇宙物理学の話題提供者に『私たちはなぜ人類を生き長らえさせようとしているのか?』と問いかけられた時、まず、自分が人為起源CO2の削減と気温上昇の安定化にこれほど必死になって拘っているにも関わらず、これまでこの基本的な問いに十分に向き合ってきていないということに気付いたのです。
さらに、この問いに対する他の人たちの回答を聞くにつれ、地続きだと思っていたところにぽっかりと溝ができて取り残されてしまったような、不思議な感覚を覚えました。
私のグループでは、自然科学系出身の人たちは全員、一体どこに疑う余地があるのかという様子で、『生物としての本能』と答えていました。私は世代間倫理というような話をしましたが、人間は遺伝子の入れ物に過ぎず、倫理なども全て生存戦略のバリエーションに過ぎない、人類は自分たちが生き延びる価値があると後付けで理屈を作っているだけの『素敵な勘違い』をしている存在なのだ、とする彼らの説明に、何と反論すれば良いのか分からずただ戸惑うばかりでした。
誰もが、「当たり前」だと思い込んでいて、普通に生活していると全く吟味し直す機会がないようなことがたくさんあります。私たちが目指す「対話」は、議論を通して1つの合意点を見つけるようなものではなく、そのような各自の思考の基盤にあるものが炙り出され、それが揺るがされ、そして新たな思考へと昇華していく、そういう「衝撃」をもたらすものです。
上記のコメントには続きがあります。
同じようなテーマで対話を重ねて、あっという間に1時間近くが経過しました。
ただの遺伝子の入れ物に過ぎないならどうやって人生に意味を見出すのか、というこちらからの問いかけに、自然科学系の人たちも一生懸命答えを探していました。お互いに少しずつ相手の考え方や引っかかりへの理解が深まり、よりモヤモヤが深まっていきました。そして笑顔で、なんだかモヤモヤしますね、じっくり考えますね、とそれぞれが言ってお開きになりました。
私自身はこのイベントで得たモヤモヤが数日の間頭から離れず、色々なことに思い巡らすきっかけになりました。周囲の人たちともこの問いで対話してみたいと思います。
様々な場におけるワークショップや会議など短い時間で答えが求められる場で出た話題は、その日のうちに忘れることもあります。しかし、この超分野大喜利の場で心に残る議論や問いを提供できたことには、運営の私たちもニンマリしてしまいました。
これからの超分野大喜利と私たち
数時間程度のイベントで人の考え方を大きく変えることはできないかもしれませんが、対話を通じて自分の中にある当たり前を問い直し、なぜそのことを当たり前なこととして認識していたのかを考えてみることはできます。超分野大喜利の実践を通じて、このような対話が異なる考え方を持つ人々が相互に理解しあうきっかけとなる可能性があるのだ感じることができました。
最後に、今まで運営1人1人が考えてきたことやこれからの超分野大喜利について書き記して、本稿を締めたいと思います。これからの超分野大喜利にも、ぜひご注目ください。
超分野大喜利運営者の声
塩山皐月
一回一回参加者の言葉に触れることで、自分の中にボキャブラリーが増えていく感覚でした。参加者の言葉は、一人一人の背景や人生経験の積み重ねの上に発せられた言葉だと、私たちは見做していました。そのため、参加者の発言を自分の中に取り入れる時間は相手との時間をこれまでの時間を共有していく贅沢な時間だと感じていました。これからですが、皆さんと問いを考える大喜利会をしてみたいです。この時間が一番しんどくて、楽しい時間でしたので!
大木有
みんなで1つのテーマについて考えることで、今まで自分が考えつかなかったおもしろい発想に行き着くことができるということを実感してきました。同じテーマについて考えていても、物事の見方は1人1人違います。そのため、対話の場を構成する参加者が自由に考えて、言葉を重ねることで、それぞれの視点が結び合わされた発想が生まれてきます。この過程に身を置くことで、毎回とても楽しさを感じてきました。今後は、超分野大喜利というコミュニケーションの場づくりに携わった経験をもとに、学問分野に限らずさまざまな人が対話するための場のデザインもできたらいいなと考えています。
夫津木廣大
こういう場があったらいいな、と思うものを、みなさんのご協力を賜りながら形に出来ました。しんどいこともありましたが、お釣りをもらいました。最後に形として見えた大喜利は、当初思い描いていた形とは異なっていました。いい意味です。きっとこの会に魅力を感じてくれた運営・参加者のみなさんが、「こうしたら楽しくないか」と付け加えてくれたものが、僕の凡庸な発想では気づけなかったものに、手ざわりのある実感をくれました。ここで培った視点を自身の研究で表現できていないので、「まだまだだな~」と未熟さも感じます。だけれど、一歩ずつ色んなみなさんの視点を絡み合わせることを、様々なメディアで表現できるようになりたいと志すに至りました。
田中勇伍
休日の午後がつぶれるのは辛いといつも感じながら参加していましたが、毎回他者との対話を通じて思考を揺さぶられるような新たな発見があり、「いい時間だった、次も参加しよう」と思うのでした。学際融合が必要だ、対話が必要だ、とあちこちで言われているけれど、実際にその効果や威力を実感している人は少ないのではないでしょうか?自分の考えを批判しうる他者と干渉し、思考の土台が揺さぶられるために時間を使うということは、なかなかハードルが高いですよね。超分野大喜利には多くのリピーターが参加していましたが、この人たちは「味を占めた人たち」です。こういう人たちがさらに周りの人と対話していくことで、どんどん対話の力が波及していけばいいな、と思います。
これまでの超分野レポートはこちらから↓
https://majime-zine.com/archives/tag/beyond-particular-field
超分野大喜利プロジェクト
異なる分野を専門とする大学院生や若手研究者・社会人が集い、異分野融合的なおもしろい発想を創発させる対話の場「超分野大喜利」を運営している。
毎月話題提供者をお迎えし、普段の研究や仕事の中で考えている問いに対して参加者の専門分野の視点を活かして一緒に考えることで専門分野を“超”えた視点の視点の創造を目指す。
「超分野大喜利」は京都大学分野横断プラットフォーム事業に採択されており、学際融合教育研究推進センターと学術研究支援室の支援のもとで実施されている。
公式サイト:超分野大喜利プロジェクト
公式Twitter:@choubunya