no title #1 4月、彼女への一考察。

no title #1 4月、彼女への一考察。

今年の4月に入りたての京都は、春を謳歌できるほどの陽の光はなくて品よく咲き誇る桜はコンクリートのような空に映える。

大学の名前が入った封筒やバッグをぶんぶん振り回しながら歩く元気な新入生たちを横目に見ながら、私はこの春からマジメジンの活動をお休みする彼女を思った。

彼女は、幼稚園児として堂々と遊び惚けていた時代からの仲だ。幼稚園、小学校での記憶はあまりないが、スラっとしたスタイルにシンプルな服を纏って大人っぽい雰囲気だけど、いつも人を笑わせていたような気がする。

中学に入って、3年生で同じクラスになった。彼女と話す機会が増え、嗜好が似ていることに気が付いた。私は中学生「ジョシ・カースト」なるものに心を費やすタイプだったけど、彼女の前ではリラックスできていたように思う。

彼女は人を裁かなかった。

クラスの中心にいて、体育祭で「サンキューみんなのおかげだぜ!」というような万人への愛を叫ぶようなヒトではなかったが、クラスの中で、彼女が誰かを排除したり、人によって態度を変えたりすることはなかった。

高校からは別々の進路に進んだのだが、マジメジンでまた道が重なることとなる。そのきっかけは、中学生時代、彼女が私にくれたカードだった。

片方の手のひらに収まるくらいの小さな薄い紙に、マジックで宇宙の絵が描かれていて、オリーブの葉をくわえた鳩や、真っ赤なハートが浮かんでいた。その裏には一つ一つのモチーフが、私のどこをイメージして描いたものであるか詳細に書きつけてあった。

彼女の赤いハートを銀河に浮かべちゃうセンス、細かな作業を美しくこなす器用さ、そして、人に心を尽くせる濁りなき気持ちに、震えた。

そのカードを常にお財布に入れていた私は、コンビニでアイスを買う時も、友だちに小銭を貸す時も、彼女を思い出した。

そして、大学生になりマジメジンを立ち上げ、ステキセンスでデザインを担当してくれる人を探している時も、彼女を思い出した。彼女その役回りを快く引き受けてくれ、まだ不安定だったマジメジンのイメージを定着させる、というかどんどん良くする、想像を超えたビジュアルを構築してくれた。

彼女の写真やイラストは、ポジティブなのだ。元気になれる色を惜しみなく使い、自然や植物に寄り添、そのパワーを存分に取り込む。

彼女が提供してくれた写真は、実はマジメジンのための撮りおろしではない。彼女が生活する中で愛、思わず切り取った情景の数々を、マジメジンに重ねてくれたのである。逆に言えば、彼女は「良いっっ!!」と思った情景を、思わず撮ってしまうタチなのである。

そして彼女のイラストの代表作は編集部員のビジュアルであるが、オンラインでしか繋がったことのない相手のことも、表情や雰囲気を言葉や仕草から汲み取って、愛らしい表情に仕上げた。

もう、あのカードを作ってくれた日から5年は経っている。山あり谷ありの月日の中で、人を裁かず、心を尽くす、彼女の姿は確かに磨かれていた。

この春、重なった道は、また分かれた。彼女は、心身を尽くして人を守る仕事に就いた。責任の重圧も、自分をすり減らすことも、あったと思う。だけど、最後の編集会議で彼女が言い残した言葉を聞いて、いろいろと腑に落ちた。

「私たちは目的を探しながら生きてるから、「人を守る」という、強烈な目的のある仕事に就くのは、人生にとって良いと思った」

高校3年生だから受験勉強。大学4年生だから就活。それももちろん大事だけれど、彼女は既にその次元からは脱していたのだ。

人生にとって良いことか。

その問いが、彼女の生き方そのものだと思った

photo : ナカノ

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中野多恵

編集長。大学院生。芸術コミュニケーション専攻。

好きな言葉:「手考足思」(河井寛次郎)

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