マクドナルド新商品「サムライマック」にみる現代の「サムライ」考 /辞書企画vol.3

マクドナルド新商品「サムライマック」にみる現代の「サムライ」考 /辞書企画vol.3

「辞書」を手がかりとして、ことばと「真面目」に向き合ってみる「辞書企画」。第3弾である今回は、マクドナルドの新商品「サムライマック」という言葉から、「侍」という言葉、ひいては現代の「サムライ」たちについて考察を試みたい。

現代の「サムライ」語釈

仕事に従事する者。会社への忠誠を尽くす。何かを遂行する対価として給与を受け取る社会層をいう。刀や槍を手放した代わりに、パソコンや営業鞄を手にしていることが多い。一般的に、スーツを着用している者が多い。仕事人。

現代の「サムライ」たちを、こう定義しよう。

「サムライマック」とは

2021年4月7日から、「炙り醤油風 ダブル肉厚ビーフ」「炙り醤油風 ベーコントマト肉厚ビーフ」の「サムライマック」が新レギュラーとして発売された。

肉厚なパティとガツンとくるガーリックの効いた濃いめのソースが売りだ。

ここではハンバーガーではなく、「サムライマック」という不可解なネーミングについて考えてみたい。

まず、CM『サムライマック「大人を楽しめ」篇 60秒』をご覧いただきたい。

CM『サムライマック「大人を楽しめ」篇 60秒』

日本の大人たちへ。「大人のみなさん、お疲れ様です。無数の生き方がある時代、正しい答えなんて一つもない。大事なのは何をやるかよりあなたが何をやりたいか。さあ、大人を楽しもう」と訴えかけてくる。大人を楽しめ。

ハンバーガーの紹介以上に「大人たち」へのメッセージが強調されている。

「大人代表」として起用されたのは堺雅人さん。このキャスティングには、明確な意図を感じる。堺雅人さんといえば、『半沢直樹』。日本国民の多くがそうイメージするだろう。半沢直樹は、メガバンクに勤めるスーツの似合う男。いかなる時も自分の意見を貫き通し、時に権力にも怖じず楯突く姿は印象的だ。まさに「デキる大人」の象徴である。

このCMは、本格志向の「大人」をターゲットとし、「和風」のソースを売りにするバーガーの宣伝であるから、日本的な「サムライ」のイメージを関連づけることに違和感はない。

しかし、なぜテクノロジーの進歩著しいこの今、「サムライ」なのか。

「侍」とは何者か。

「サムライマック」の「サムライ」(=「侍」)とはどんなものであったか。一旦、辞書的な意味を確認してみよう。

『広辞苑』(第六版)には、

さむらい【侍】

①「さぶらい」に同じ。

②(「士」とも書く)中世では一般庶民を意味する凡下と区別される身分呼称で、騎馬、服装、刑罰などの面で特権的な扱いを受けた。江戸時代には幕府の旗本、諸藩の中小姓以上、また士農工商のうちの士身分の者を指す。

③転じて、なかなかの人物。

④近世初期、武士の方向人の最上級。若党。

『広辞苑』第六版

とある。しかし、今一つ全体像が見えてこない。「武士」の項をひいてみる。

ぶし【武士】

武芸を習い、軍事にたずさわる者。武芸を職能として生活する職能民と捉える立場からは、平安後期に登場し江戸時代まで存続した社会層をいう。さむらい。もののふ。武者。武人。

『広辞苑』第六版

この記述に照らせば、現代に「侍」が存在するはずはない。「侍」を旧時代的、封建的社会の象徴と見ることも不可能ではないのである。

現代の「サムライ」?

では、なぜ「サムライ」なのか。

マクドナルドが想定する「サムライ」とは、現代のスーツを着た大人たちである。甲冑を身に纏った中世人ではない。刀や槍を持たなくなった現代の大人たちが手にしているのは、パソコンだ、営業スマイルだ。毎日パソコンと向き合い続け、取引先に頭を下げる。そんな、「日々頑張っている大人たち」をマクドナルドは「サムライ」と呼び、力強いエールを贈っている。

辞書の記述には見られなかったが、中古・中世の侍たちは「忠誠心」を重んじたと言われている。封建制度下では、主人と従者の間に「御恩と奉公」の関係が結ばれており、従者は主人に対し忠誠を誓い、命を捧げる覚悟を示した。

現代の「サムライ」たちも、会社に対するある種の「忠誠心」があるように思えてならない。

サラリーという名の御恩を受けとる代わりに、忠誠を尽くして奉公する。満員電車に揺られて通勤し、満身創痍で退勤する。時には、プライベートの時間を削ってでもやるべき仕事がある。いくら給料を貰えるとはいえ、忠誠心がなければやっていけないようなこともあるかもしれない。数十年前と比べれば、もう汗水垂らして働く時代ではなくなっているのかもしれないが、それでも現在の日本の発展が働く大人たちの「奉公」によって支えられていることは間違いないであろう。大人たちの忠誠心は尊いものであるからこそ、マクドナルドは「頑張る大人たち」に「サムライ」という名誉ある呼称を与えた。

そういえば、日本のサッカー代表のことを「サムライブルー」と呼ぶ。濃紺のユニフィームを身に纏った彼らも、サッカーボールを追う現代の「サムライ」に他ならない。プロ野球の日本代表、「侍JAPAN」も同様である。

先ほど挙げたマクドナルドのCMは、社会人に対するエールを贈ると同時に、大人たちがひょっとしたら無意識のうちに押し殺しているかもしれない感情たちを拾い上げ、肯定している。

「本当に大人を楽しめていますか」

この問いにぎくりとする「大人」も多いのではないだろうか。

「サムライマック」CMに見る現代日本の社会人たち

なぜマクドナルドの広告にこのようなメッセージが込められているのか。

それは、このメッセージを、社会の側が要請していたからだと考えることはできないか。このCMには「大人たち」からの共感や憧れが集まるはずだ。(企業サイドは、その共感や憧れが間接的に人々の購買意欲につながることを狙っているのであろうが。)この広告が人々の心に直接響くものであるとすれば、逆説的な言い方ではあるが、現代の日本の社会人の多くは感情や行動を抑圧された状態にあると言えてしまうのではないか。

CMが訴えかける「あなたが何をやりたいか」という価値観で生きることは、そう容易なことではないだろう。

変顔で証明写真を撮ること。

同調圧力に屈さず、立ち上がって声を上げること。

泥で汚れることも厭わずに、何かに熱狂すること。

人目も気にせず、感情を爆発させること。

傍観者であることを辞め、安全地帯から一歩踏み出して参戦すること。

会社への忠誠心を持つ「侍」的大人へのリスペクトを示しつつも、「つわもの」的な勇気ある行動へと背中を押す。そんなメッセージに相応しい言葉が「サムライ」であった。

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モエコ

副編集長。福井県出身の大学生。日本近代文学専攻。

好きな言葉:「書は言を尽くさず、言は意を尽くさず」
編集部での役割:ねちねち編集、校正、Instagram、諸々のちいさなこと

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